そしてこの2社のアイテムに共通するのが、これまで足し算で設計されてきた炊飯器に「引き算」を持ち込んだことだ。過去、日本のメーカーの炊飯器は高機能化を目指してきた。保温機能を加え、早炊き機能も搭載した。だがこの2社の炊飯アイテムに保温機能はない。炊飯器で「保温」されたコメはその食味を落とす。味を追求するとなると「保温機能」は矛盾する機能になってしまう。
大手メーカーもこの事実にはとうに気づいているはずだが、「保温機能をカットしたら、何人の客を失うことになるかわかっているのか」などというお偉いさんの一喝で現状維持に着地する現場が容易に想像できる。対して保温機能を省いた炊飯器は「炊き上がり後1時間以内に食べきらない場合はおひつへ移し替えるか、冷凍保存してお楽しみください」(バルミューダHPより)と潔い(そしてこの手法はおいしくごはんを食べるためには、圧倒的に正しい)。
さらに言うとバルミューダの炊飯器は「コメの新しいおいしさ」の提案にまで踏み込んでいる。同社の炊飯器は「蒸気で炊き上げる」という斬新な手法を採っている。これまでの炊飯器では、炊飯時にはコメを湯のなかで踊らせ、削られたコメ表面の炭水化物を「ねば」として表面にまとわせ、口に含んだ瞬間甘みを感じさせるという手法を取ってきた。
実際、炊飯にまつわる論文でも、「ねば」が食味向上に有意に関係するとされている。だがコメを踊らせず蒸気で炊き上げるとなると、その「ねば」は減る。つまりバルミューダは、炊飯器の常識だった「口に入れた瞬間の甘み」を捨てた。そして代わりに「コメの粒だち」や「噛むことで後から伸びてくるコメの甘み」を提案しようとしている。
いつからだろう。「うまいコメ」と言えばコシヒカリを指すようになっていたのは。だが最近では、全国各地でさまざまな食味のコメが食べられるようになった。北海道の「ななつぼし」や九州・四国の「にこまる」は地元でしっかりシェアを獲得しているし、青森の「青天の霹靂」など新しい品種の台頭も目立つ。当然ながら品種や生産者によってもコメの食味は異なる。ならば炊き方にだって、新しい提案があっていいはずだ。
日本人の消費トレンドは、単純にアイテムを獲得するためのモノ消費ではなく、「体験」を伴うコト消費へと完全に移行した。特定のアイテムにおける情報や機能が飽和状態のいま、必要とされるのは足し算ではなく引き算。何を見据え、何を切り捨てるか。その積み重ねで、マーケットは多様になっていく。いま消費者が求めているのは、多様な選択肢。コメだけではない。2017年、「食のダイバーシティ」は進化する(※注 本稿は記事広告/PR記事の類ではありません)。