◆「行き止まりになってる」
本書の冒頭は、まさにタイトル通りこう始まる。
〈いきなりだが、夫のちんぽが入らない。本気で言っている。交際期間も含めて二十年、この「ちんぽが入らない」問題は、私たちをじわじわと苦しめてきた。周囲の人間に話したことはない。こんなこと軽々しく言えやしない〉
なぜ、こんなことになったのか。著者は大学入学してすぐ、同じアパートに住む大学の先輩と知り合い、交際が始まる。ここまではまるで淡い青春小説のようだが、最初のセックスで事態は急展開する。
〈やがて彼は動きを止めて言った。
「おかしいな、まったく入っていかない」
「まったく? どういうことですか」
「行き止まりになってる」
耳を疑った。行き止まり。そんな馬鹿なことがあるだろうか〉
2人は結局この日、セックスできなかった。それなりの経験がある彼は戸惑いながら、「俺も初めての人とするのは初めてだから」と弁解した。
だが、それは違った。著者は高校2年の時、祭りで声をかけてきた見知らぬ男子高校生を相手に初体験を済ませていたのだ。
つまり、2人とも異常があるわけではない。しかし、できないのだ。無理して入れれば先っぽだけは入るが、その代償として著者の局部は裂け、血が流れてしまう。2人はその後も入らないセックスに何度も挑戦しながら、最後は断念し、手や口だけで射精するだけの日々を続けた。
〈そして、ほどなくして私は、このちんぽが入らない人と結婚した〉
その後、夫が風俗に通ったり、著者がネットで知り合った男と関係を持ったりといった紆余曲折を経て、現在に至るまで夫婦生活を続けているという。
◆「ペニス」でも「ちんちん」でもない
ともすると陰鬱で痛々しいルポになりそうだが、ユーモラスで読みやすくしているのは、「ちんぽ」という言葉の響きだろう。著者のこだま氏はこう説明する。
「『夫のアレ』とボカすのは余計恥ずかしさが増すし、『ペニス』も『ちんちん』も何か違う。それならいっそ自分が絶対に使わない『ちんぽ』がいいのではないか。突き抜けていて、おかしみがあるように思いました」
発売を前にして夫婦関係はどうなのか。
「夫とは性的な関係のない『兄妹』のような生活がずっと続いています。若い頃は『セックスしなければいけない』『子供を産まなければいけない』という気持ちに強く縛られていましたが、今は世間一般が考える普通からはみ出していてもお互いが納得しているのならいいじゃないかと、ようやく思えるようになりました。この本を出すことは夫に言ってません。死ぬ前までに打ち明けることができれば、と思っています」
発売前から話題沸騰の本書だが、一つ大きなハードルが立ちはだかる。新聞広告だ。書籍のタイトルにもかかわらず、新聞社によっては「ちんぽ」という字が審査で引っかかり、広告を出せない事態が想定されるという。まずは本誌記事の新聞広告がどのように掲載されることになるか、見物である。
※週刊ポスト2017年1月27日号