確かに現代の日本社会では万人に平等とはいえず、大きな学歴の壁が存在する。厚労省の統計「学歴別に見た賃金」(2015年度)によれば、大卒者の平均年収は402万円。短大・高専卒308万円、高卒288万円と下がっていく。中卒者は統計もない。
◆娘の表情が証明していた
漠然とした不安が現実になるきっかけは、娘が小学5年生に上がった2011年の6月。大手お受験塾の主催する「無料テスト」のチラシが届いたことだった。
「娘は授業中にもよく発言し、宿題もこなす真面目な子でした。どこかでかすかな期待があったんです」(桜井さん)
結果は、淡い期待を粉々に打ち砕くものだった。受験者2万6393人中2万位以下。国数社理の4科目の偏差値は、ドラマの通り41。見るも無惨な成績に、桜井さんは頭が白くなった。
「あ、このままだとおれと同じ人生を歩むな、と。直感で思ったんです。慌てて進学塾に入れようと、入塾テストを受けさせました」(桜井さん)
だが、有名塾は軒並み不合格。入ることさえ許されなかった。入塾を許可された塾もあったが、いちばん下のクラスで月謝だけ取られる光景が目に浮かび、躊躇した。
年間数十万~100万円ともいわれる費用がネックの上、進学塾には“特殊な事情”もあった。進学塾関係者が語る。
「有名塾になるほど両親の学歴が保護者間のヒエラルキーに繋がります。低所得者向けの団地に住んでいるとか、ステータスの低い家庭の子供が通ってくること自体に嫌悪感を示す保護者もいます。“ああいう家の子と一緒のクラスで大丈夫かしら”って」
悩み抜いた桜井さんが選んだのは、自分が勉強し、自分で娘を教える「親塾」という道だった。文字通り、娘のドリルを一緒に解き、一緒に解説を読み、一緒に復習するという二人三脚である。
目指すべき学校は、女子私立中学の最高峰『桜蔭学園』に決めた。偏差値は72。中高一貫校で、東大に毎年60名以上の合格者を出す屈指の難関校だ。
「志望理由は、単純に偏差値がいちばん高いからです。代々続く中卒という河川の流れをせき止め、自然に逆らい強引に“流路変更工事”をするには、生半可な目標じゃダメ。目指すなら1番だと決めていました」(桜井さん)
2011年9月、一世一代のお受験計画が始まった。だが、「親塾」は早々に難題にぶち当たる。桜井さんが、娘の参考書の問題を全く解けないのだ。試験本番では10分で解かなければいけない算数の計算問題に25分かけたあげく、全問不正解という有様。
ドラマの原作著書には、桜井さんの当初の学力を示すエピソードが頻出する。