簡単に説明すると、ワクチンとは、無毒化あるいは弱毒化した病原体を注射などで接種することにより、その病原体に対する免疫(抗体)を体内に作り、病気を予防するものだ。
ワクチンというと、子供が接種するものというイメージが強いかもしれない。日本では定期予防接種として、風疹や麻疹(はしか)など15種類のワクチンを小児期に接種することが義務づけられており、他にもおたふくなど8種類が任意接種とされている。
だが、最新の知見からいえば、“ワクチンは子供のためのもの”という認識は違ってきている。「中高年こそワクチンで免疫力を高めよ」というアプローチが注目されているのだ。ワクチンで予防できる疾患は、いわゆる感染症の類いにとどまらず、がんや認知症といった中高年世代が警戒すべき“国民病”にまで広がろうとしているのである。
「65歳になったら受けるべき」と推奨されているのが肺炎球菌ワクチンだ。川崎医科大学の尾内一信・小児科教授がいう。
「肺炎球菌も2014年から65歳以上の高齢者を対象にした“定期接種”になりました」
完全な予防ではないが、少なくとも重症化を防いだり、死亡率を低下させられるメリットは大きい。
「高齢者は公費の補助により3000~4000円ほどの自己負担でワクチンを打つことができます」(同前)
また、50~60代のうちに「帯状疱疹」のワクチンを接種することを推奨する専門家も少なくない。この疾患は体の左右どちらかに赤い発疹が帯状に並んででき、痛みや頭痛、時には39℃以上の発熱を伴う。
「原因は水疱瘡(みずぼうそう)のウイルスです。一度、水疱瘡に罹って治った人でも、ウイルスが背骨近くの神経節に潜んでいて、加齢や大病などで免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化して帯状疱疹を引き起こす。50歳を超えると発症率が急上昇し、70~80代が最も多い。
子供に打つ水疱瘡のワクチンとほぼ同じものを接種することで体の中に記憶された免疫を呼び覚まします。米国の研究では、ワクチンを打つことで発症率が半分、神経痛が残る確率が3分の1ほどに低下することがわかっています」(愛知医科大学・渡辺大輔皮膚科教授)
※週刊ポスト2017年2月3日号