時代劇では老中、現代劇では大学教授や社長など、身分の高い役柄を演じることが多い。
「大事なのは言葉尻です。その人の生活環境って、言葉遣いに出るんですよ。ですから、台本を読んでも『お金持ちでいい生活している人はこういうことは言わないと思います。削っていいですか』と確認することがあります。衣装もそうです。『こういう役だから、せめてこのくらいの服を使わせて』と衣裳部に頼むこともありますし、難しい場合は自前でも持っていきます。
そういう生活感や言葉遣いが、職業やその人の属している階層を表わしていると思います。それを、どう拾い上げていくか。もちろん、セリフを大きく変えてしまうのは悪いから、セリフ尻の語尾だけは変えさせていただくことがあります。『そうでしょう』と『そうだろう』では、生活の『棚』が違いますから。
芝居は感性のものですから、絵でもなんでも『本物』を見てなきゃ駄目だと思います。そうやって脳を刺激しておかないと。つまらないものばかり見ていていい芝居しようと思っても、できないですよ。ですから、若い人には『いくらくれますか』ではなく『いくら身銭切れるか』を考えなさい、と言っています。
座右の銘は『人の芝居が下手に見えた時は、自分が下手になっている時だと思え』です。駄目な人ばかりに目がいって、上手い人に目がいかなくなったら、自分の感性が落ちているということだと思っています」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年2月3日号