佐藤さんの演技がなぜ人々の注目を集め、ネットで盛り上がるのか? その理由は、「こんなヤツいるいる」と「いやいや、いないよ」の両論を生み出す役作り。しかも、同じオタク風のキャラクターでも必ずディテールを変えるなど、安易に前回の演技を踏襲しないので飽きられないのです。
また、「延長なさる、なさらざる?」「おきゃ、おきゃ、おきゃくさ、オッキー、オッキーさん」「あまりなるほどと思っていないがなるほど」「激しく同意、あるいは御意」などの迷言も見どころの1つ。このように佐藤さんは多彩な仕掛けを用意し、それを長年続けていますが、「独りよがり」「エゴイスト」という印象を持たれないのは、「あくまで作品や共演者ありき」だから。ひょうひょうとした佇まいの裏には緻密な計算があり、だからこそコメディの質をワンランク上げられるのでしょう。
佐藤さんと言えば、今作の脚本・演出を手がける福田雄一さんや、コメディの第一人者・堤幸彦さんの作品でのコミカルなイメージが強いものの、それは“俳優・佐藤二朗”のごく一部に過ぎません。
その素顔は、二度の会社員生活を経ても、文学座などの養成所で挫折しても、役者の道をあきらめず、自ら劇団『ちからわざ』を旗揚げした熱さの持ち主。「ああいうコミカルな芝居ばかりになるのもよくない」と語る冷静さも兼ね備え、底知れない怖さ、時折見せる弱さ、背中に漂う哀しさなどを演じ分けられる俳優です。