そんな情勢下で、日本の制裁まがいの慰安婦問題対抗策は意外な効果を発揮している。驚きと当惑の韓国政府やメディアは「日本とはこれ以上、ケンカできない……」というお手上げムードだし、慰安婦像問題でも「ウィーン条約」を紹介しながら、やっと「外国公館前への設置は国際法上まずいようだ」「撤去でなく移転なら」などといったまともな議論が出はじめた。
韓国には申し訳ないが、韓国ウオッチャーたちの間では昔から「韓国が困れば日韓関係はよくなる」という言い草がある。今年はまさにそんな雰囲気のスタートである。
したがって、500万人突破の訪日韓国人観光客は、若者や家族連れを中心に、反日には「それはそれ、これはこれ」という感じでますます“安近短”と“安心安全”の日本旅行を楽しむことになる。
ところで年初にソウル・大阪を往復したが、近年の韓国人の日本旅行は大阪が人気トップである。金浦空港のミニ書店の観光ガイド本もほとんどが大阪ガイドでみんな版を重ねている。機内は韓国人が9割以上で、大阪名物を提供する関空ターミナルビルの食堂街も韓国人で溢れていた。
ちなみに大阪人気を探ってみると「安い」「気楽で親しみがある」「東京より日本的」「食がおいしい」にはじまり、あとは「ディズニーランドは飽きた、ユニバーサル・スタジオの方が面白い」「京都、奈良、神戸も楽しめる」……など。
昨年、韓国人客への嫌がらせではないかと騒がれた大阪の寿司屋の“ワサビ・テロ事件”(*)は早々に印象が薄れ、今年も韓国人は大阪を大いに楽しんでいる。
【*大阪の寿司店を訪れた韓国人客の寿司に、通常より多いわさびが盛られていたことがネットで拡散。批判を受けた寿司店は「海外のお客様はわさび増量の要望が多く、事前確認しないまま提供してしまった」と謝罪した】
一方の日本人は、昨年やっと回復の兆しをみせた韓国旅行が釜山慰安婦像事件で逆戻りしそうだ。あらためて反韓・嫌韓感情を刺激され「それはそれ、これはこれ」の政経分離が難しくなった。日本人にも韓国同様、国民感情はある。韓国も“ジコチュウ愛国パフォーマンス”が国益を損なっていることをそろそろ自覚しなくっちゃあ。
●くろだ・かつひろ/1941年生まれ。京都大学卒業。共同通信ソウル支局長、産経新聞ソウル支局長を経て産経新聞ソウル駐在客員論説委員。著書に『決定版どうしても“日本離れ”できない韓国』(文春新書)、『韓国はどこへ?』(海竜社刊)など多数。
※SAPIO2017年3月号