ドイツ・ザールランド大学病院のマグヌス・バウムハケル博士が2008年に発表した論文によれば、降圧剤を服用していない1069人の高血圧患者に6か月間イルベサルタンを飲ませて勃起機能を評価したところ、ED罹患者の割合は78.5%から63.7%に下がったという。
同じARBである「ロサルタン」でも同様の報告が出ている。米国・ウェイクフォレスト大学のカーロス・フェラリオ教授らの研究チームが2000年に行なった調査結果では、EDに悩む高血圧患者82人に1日50~100ミリのロサルタンを12週間摂取させたところ、88%がEDや性生活満足度に「改善があった」と回答。
特に勃起改善による性生活満足度は7.3%から58.5%と飛躍的に増え、「性交渉回数が増えた」と回答した人も40.5%から62.5%に増加した。
レポートをまとめたフェラリオ教授は論文中で、〈EDの副作用を恐れて降圧剤の服用をやめている患者に対して有効な解決策となる〉と綴っている。
ARBが、EDを改善させるのはなぜか。『誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方』の著者で、内科医でもある北品川藤クリニックの石原藤樹院長が解説する。
「ARBは、血管を収縮させる『アンジオテンシンII』という腎臓から分泌される物質の働きを抑制して血圧を下げる薬です。ARBを服用することで、陰茎の血管を収縮させる『アンジオテンシンII』の働きも抑制され、陰茎の血流も改善するので勃起を助けているのでしょう」
日本性機能学会が監修する『ED診療ガイドライン』にもARBは勃起機能に保護的に働くと記されている。
また、ARBには「臓器保護作用」という、動脈硬化の影響を受けやすい心臓や腎臓などを守る働きがある。これが勃起改善に繋がっていると指摘するのは、薬剤師の深井良祐氏である。
「勃起は陰茎内部の平滑筋が弛緩して海綿体に血液が流入することで起こります。EDは動脈硬化によってその血流が悪くなることで引き起こされる。
ARBの臓器保護作用によって腎機能が回復すれば、動脈硬化の原因となる老廃物を濾すことができる。これによって平滑筋周辺の血流も良くなり、EDが改善されるのでしょう」
また、深井氏は「イベルサルタン」が持つ、別の作用にも注目する。
「イベルサルタンには『アディポネクチン』というホルモンの分泌を増やす作用がある。アディポネクチンは脆くなった血管を修復し、血管の老化を防ぎ、動脈硬化の改善に繋がるといわれる。こうした働きも、ED改善に繋がっている」
しかし、ARBは他の降圧剤に比べて血圧を下げる効果が高くなく、1.5~2倍ほど薬価が高いのがネックとなっている。
※週刊ポスト2017年2月17日号