最終的には放送部で、“私の声よ、彼に届け!!”と気取ってアナウンスをしておりました。 そして来 ました、“本気の2月14日”。放課後の廊下はシーンとしていて、自分の鼓動が聞こえるようだった。廊下の向こうから彼が爽やかに、そして小気味よい速さを保ちながらこちらに走ってきた。サッカーを終えたばかりの初恋の君は、まだ火照って暑いのか、学ランのボタンを1つ2つ開けていた。

 ここからは断片的にしか思い出せないが、不器用に渡したチョコを彼は恥ずかしそうに学ランと白いシャツの間にしのばせた。…と言いたいとこだが、大きすぎたらしく、必死に押しこんでいた(やってしまった!チョコの容器が大きすぎだ!)。

 今も後悔している。このチョコ選び…だってね、好きな人にはたくさんチョコを食べてほしいじゃないですかぁ。まぁ、早い話が私は初恋の彼に直径20cmくらいのプラスチックの円柱の、ギッシリ、チョコ詰め合わせ的なものをプレゼントしてしまったのです(大 人になって考えてみると、あれは多分、お中元やお歳暮の贈答用なのだと)。

 今や、競うように毎年並ぶオシャレなチョコレートたち。ビターやホワイト、ストロベリー、カカオの パーセンテージまで出て、いい時代になりましたね(脱線脱線)。なにはともあれ、私のチョコレート球は何とか“ストライクっ!”と審判の声が上がり、淡い淡い恋が始まりました。

 来る日も来る日も、手もつないだことがない、ひたすらの交換日記。でもこれがいいんですよ、私が頑張って1ページ以上書いても、彼の返事はたったの2行だったり。その2行が無愛想なだけに愛おしかったり。

 “私”今夜もオリオン座がきれいですね…etc.。“恋君”おれんちのうえ、曇ってて見えねぇ。みたいな(あーアホだ私は。恥ずかしくなってきた)。でもLINEじゃこうはいかない、手書きの文字だからこその愛しさです! 歪な文字たちも。

 結局、あの恋は受験という風に乗ってどこかに飛んで行ってしまったけど、生まれて初めてチョコレートを握りしめながら自分から飛び込んだ、早春の紛れもない恋だった。今も余韻にひたれるほどに。

 さて、チョコレート売り場に集う皆さま、そのチョコ、カカオ何%ですか。そして本気度何%ですか?

 恋セヨ乙女、恋セヨ大人…。

撮影/渡辺達生

※女性セブン2017年2月23日号

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