映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、無宿人の直次郎として本田博太郎が必殺シリーズにレギュラー出演した当時について語った言葉をお届けする。
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本田博太郎は1981年、テレビシリーズ『必殺仕舞人』にレギュラー出演。メイン監督は工藤栄一が務め、撮影は京都映画撮影所(現・松竹撮影所)だった。
「あそこは工藤さんを始め、スタッフもみんな超玄人の職人がいる集団ですからね。俺みたいな小僧が行ったところで、簡単には通用しないと本能的に思いました。
台本通りではなく、その時その時の感覚で演じました。それが工藤さんの狙いでしたから。ケタ違いの人でした。頭の中の美学は二重、三重の構造になっていて、いつも非常に深く計算している。だから、『俳優さん的な芝居』なんかで対応していたらとても間に合いません。こちらの人となりをぶつけて、それが見えた時に初めて工藤さんは『おもろい』と言ってくれます。俺の奥底にマグマが滾っていて、それが映像に足跡として残れば面白がってくれるといいますか、発想外の感覚から噴き出した演技を喜んでくれる。
芝居が巧い、拙いというより『ザ・人間』が反映出来ればいいのです。この作品なら、人間として画面に何かを残せるかもしれないと思ってやっていました」
『必殺仕舞人』の主演は京マチ子と高橋悦史だった。