ネットショッピングは便利だが、それは注文が確実に反映されて商品が手元に届く「安心」が前提にあってこそだ。中国の情勢に詳しい拓殖大学海外事情研究所教授の富坂聰氏が指摘する。
* * *
中国のネット商取引(EC)の隆盛は伝えられて久しい。2016年の予測ではEC市場規模は15兆1000億元(約247兆6400億円)に達しているという。
数年前に日本をにぎわせた“爆買い”はすでにEC市場に移ったとされ、日系企業が直接中国のEC市場で売り上げを伸ばす現象も目立って増えている。今年はまさに「越境EC元年」とも予測されているだけに、中国の市場動向は気になるところだ。
ところでこの堅調な中国のEC市場の伸びが、一つには質と量の両面で急速に広がった流通によって支えられていることは案外忘れられがちである。クリック一つであっという間に商品が届く。その当たり前の条件が崩れれば、EC市場に対する消費者の信頼は大きく損なわれるだろう。
そんな折も折、注文した品物が届かないという問題が発生し、大きな話題となった。2月16日付『中国新聞ネット』には、〈宅配便が倒産、会社は業種転換か? そのとき配達途上の商品はどうなる?〉と題した記事が掲載された。
記事に添えられた写真には、倒産した宅配便の企業の倉庫に大量の段ボールの山が積まれていて、関係者がそれを呆然と眺めている様子が写っている。その状況がすべてを物語っているが、問題となった企業では一人平均8万元(約131万円)から9万元(約148万円)の未払い賃金があったという。
記事のタイトルになった「どうする?」意味は、これらの商品を売ってその資金にするか?という意味だ。
賃金の未払い問題はすでに倒産前から深刻で、配達員の間ではずいぶん前から未払いの穴埋めとして商品を転売しようという相談がなされていたという。現状、こんな事故が起きることはめったにないようだが、EC市場の脆さを露呈することになってしまったのである。