芸能

指揮者・佐渡裕氏 最初は固辞した「1万人第九」からの学び

昨年12月、「1万人の第九」本番直前のリハーサルの様子

 指揮者・佐渡裕(55)は、日々の演奏会に忙殺されながらも、クラシック音楽を少しでも広め、その面白さを知ってもらおうと積極的に活動している。2008年から7年間にわたって務めた『題名のない音楽会』(テレビ朝日系)の司会もその一環であり、芸術監督を務める兵庫県立芸術文化センターで行なわれる地域の人々とのイベントにも毎年参加する。

 佐渡はまた、1999年から山本直純の後を継ぎ、年末の「サントリー1万人の第九」を指揮し続けてきた。全国の応募者の中から、抽選で選ばれ構成された1万人の合唱団。世界最大規模の合唱コンサートで、初めて振ったときに、佐渡は体重を7kgも落としてしまったというほどの「難物」だ。各地の合唱指揮者の下で練習を積んだ100人、200人単位の人々が集まり、1000人規模となったところで、「佐渡練」と呼ばれる佐渡の練習を行なう。

「4割ぐらいが未経験者で、そういう人たちに1000人で歌うことの難しさと喜びを体験していただく。最終的に1万人で歌うわけですから、1万人の中の一人が適当に歌うのではなく、自分自身が主人公の一人であるという意識を持たせる。そしてベートーベンは何を求めていたのか、僕の言葉でみんなをその世界に引き寄せる。練習に入るとめちゃくちゃエネルギーがいるんです」

 壇上に立った佐渡は、合間、合間で次のような話を挿入して、「第九」の背景をやさしく解く。

「ケルビムという天使の門番が神様の前にいて、簡単には神様のいる天国には行かせてくれない。みんなで力を合わせてケルビムに立ち向かって、フロイデという喜びをつかみに行く。努力してすごい尊いこと、高みを目指すけど、なかなかたどり着かないんです」

 佐渡が言葉を発するたびに、団員たちはみるみる一つにまとまっていく。声が輝き出し、向かっていく先が定まってくる。これこそが指揮者・佐渡の力なのだろう。

 もっとも、最初に第九のオファーがあったとき、佐渡は固辞している。「1万人で歌うなんてバカげたお祭りだ」と思ったからだと笑う。が、結局、18年も続けている。

「ベートーベンが第九に込めた思いみたいなものが、1万人と共に取り組むことで、自分の中でもっと近く感じられるようになった。この革命的で、挑戦的な交響曲が身近になったんです」

関連キーワード

関連記事

トピックス

奥田瑛二
映画『かくしごと』で認知症の老人を演じた奥田瑛二、俳優としての覚悟を語る「羞恥心、プライドはゼロ。ただ自尊心だけは持っている」
女性セブン
『EXPO 2025 大阪・関西万博』のプロデューサーも務める小橋賢児さん
《人気絶頂で姿を消した俳優・小橋賢児の現在》「すべてが嘘のように感じて」“新聞配達”“彼女からの三行半”引きこもり生活でわかったこと
NEWSポストセブン
NEWS7から姿を消した川崎アナ
《局内結婚報道も》NHK“エース候補”女子アナが「ニュース7」から姿を消した真相「社内トラブルで心が折れた」夫婦揃って“番組降板”の理由
NEWSポストセブン
JR新神戸駅に着いた指定暴力団山口組の篠田建市組長(兵庫県神戸市)
【厳戒態勢】「組長がついた餅を我先に口に」「樽酒は愛知の有名蔵元」六代目山口組機関紙でわかった「ハイブランド餅つき」の全容
NEWSポストセブン
真美子夫人とデコピンが観戦するためか
大谷翔平、巨額契約に盛り込まれた「ドジャースタジアムのスイートルーム1室確保」の条件、真美子夫人とデコピンが観戦するためか
女性セブン
日本テレビ(時事通信フォト)
TBS=グルメ フジ=笑い テレ朝=知的…土日戦略で王者・日テレは何を選んだのか
NEWSポストセブン
今シーズンから4人体制に
《ロコ・ソラーレの功労者メンバーが電撃脱退》五輪メダル獲得に貢献のカーリング娘がチームを去った背景
NEWSポストセブン
「滝沢歌舞伎」でも9人での海外公演は叶わなかった
Snow Man、弾丸日程で“バルセロナ極秘集結”舞台裏 9人の強い直談判に応えてスケジュール調整、「新しい自分たちを見せたい」という決意
女性セブン
亡くなったシャニさん(本人のSNSより)
《黒ずんだネックレスが…》ハマスに連れ去られた22歳女性、両親のもとに戻ってきた「遺品」が発する“無言のメッセージ”
NEWSポストセブン
主犯の十枝内容疑者(左)共犯の市ノ渡容疑者(SNSより)
【青森密閉殺人】「いつも泣いている」被害者呼び出し役の女性共犯者は昼夜問わず子供4人のために働くシングルマザー「主犯と愛人関係ではありません」友人が明かす涙と後悔の日々
NEWSポストセブン
不倫疑惑に巻き込まれた星野源(『GQ』HPより)とNHK林田アナ
《星野源と新垣結衣が生声否定》「ネカフェ生活」林田理沙アナが巻き込まれた“不倫疑惑”にNHKが沈黙を続ける理由 炎上翌日に行われた“聞き取り調査”
NEWSポストセブン
ハワイの別荘と合わせて、真美子夫人との愛の巣には約40億円を投資
【12億円新居購入】大谷翔平、“水原一平騒動”で予想外の引っ越し 日系コミュニティーと距離を置き“利便性より静けさ”を重視か
女性セブン