成長が止まり長期衰退・停滞しているが、大破局は起きていない。短期的な政策の失敗で若者の失業率が40%に達したり、ホームレスが増加したりはしている。しかし、中流層の生活レベルや住宅環境を見ると、けっこう豊かだ。庭付き一戸建てや1か月以上のバケーションは当たり前だし、日本のように新しい家電製品があふれているわけではないが、必要なものは全部そろっている。食生活は健康的で、ワインも日常的に飲んでいる。

 だから、日本もそういうフェーズに入ったと考えるべきなのだ。人口が増える見込みがない以上、バブル崩壊以前のような高成長は不可能であり、成長率を国家目標にしてジタバタしても仕方がないのである。

 そもそも、日本は世界から見てどんな国なのか? かつて私がアドバイザーを務めていたマレーシアのマハティール首相(当時)は「日本は社会が安定しているし、国民が勤勉でインフラが整い、高度な技術も持っている。もし日本の首相とマレーシアの首相が交代できるなら、私は日本の首相をやりたい」と言っていた。

 最近も、中国最大の電子商取引企業アリババ・グループ(阿里巴巴集団)の創業者ジャック・マー(馬雲)会長が、アメリカのドナルド・トランプ大統領と会談した際に、日本は理想的な国だと述べている。

 国会やメディアなどでは、国家的な課題として待機児童問題や働き方改革、高校無償化などが俎上に載せられているが、いずれも致命的な問題ではない。たとえば、正社員になれない若い人たちも健康でやる気があったら、時給1000円前後のアルバイトで食いつないでいけるし、そこから発憤すれば店長や管理職にもなれるだろう。野心に満ちた若者が少ないので、やる気さえあれば出世していけるのだ。

 他の国々には飢餓や難民問題など、もっと逼迫(ひっぱく)した緊急課題がたくさんある。それに比べれば、日本は格段に恵まれた“ぬるま湯社会”である。

※週刊ポスト2017年3月3日号

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