国内

進学で上京、ホームで渡された不仲だった父の手作り弁当

ホームで渡された父の手作り弁当。感動の実話エピソード(写真/アフロ)

「別れの激しい苦痛によってのみ、愛の深みを見ることができる」とは、19世紀イギリスの女性作家ジョージ・エリオットの言葉。春は出会いと別れの季節――別れは単なる悲しみではなく、愛を知り、強くなるための試練なのかもしれません。別離によってはじめて見えた、家族の愛の物語を、32才会社員女性が語ってくれました。

 * * *
「お母さんが、出て行った」

 小学5年生の時、学校から帰宅すると珍しく父がおり、突然そう告げられました。理由を聞いても、父は言葉を濁して答えてくれません。私はショックのあまり、部屋に引きこもるように。

 父はそんな私に無理に学校へ行けとは言わず、ただ食事だけは3食分、用意してくれました。母に比べて盛りつけも雑で味もいまいち。それまで料理などしたことがないのだから当たり前なのに、私は媚びるような父の態度にイライラし、わざと料理を食べず捨てていました。そんなことが続いたある日、父に「食事くらいとれ」と言われ、私は思わず、

「まずくて食べられない。お父さんのせいでお母さんが出て行ったんでしょ。私はお母さんについて行きたかったのに!」

 と怒鳴ってしまいました。父は黙って聞いていましたが、その時の顔は、今でも忘れられません。当時の私は、父親が小学生の娘の言葉で傷つくなんて、想像もしていなかったのです。

 その後しばらくして、母が出て行ったのは、母の浮気が原因だとわかりました。父にすぐ謝ればよかったのですが、時間が経つほど、言い出しにくくなってしまいました。 

 父との関係を修復できないまま、大学入学が決まり、家を出る日がやってきました。私はどうしても謝れず、「ひどい娘でごめんなさい。お父さんと暮らせて幸せでした」と手紙を残しました。

 駅のホームに見送りに来た父はお弁当を渡してくれました。中身は、ハンバーグや鶏のから揚げなど、私が小学生の時に好きだったものばかり。あまり話していなかったので、父の中の私は小学生のままだったのです。そして「いつでも帰ってこい」と書かれた紙が挟んでありました。父はとっくに、私を許してくれていたのです。丁寧に作られたお弁当は、少ししょっぱく感じました。

※女性セブン2017年3月9日号

関連キーワード

トピックス

真美子さんが“奥様会”の写真に登場するたびに話題に(Instagram /時事通信フォト)
《ピチピチTシャツをデニムジャケットで覆って》大谷翔平の妻・真美子さん「奥様会」での活動を支える“元モデル先輩ママ” 横並びで笑顔を見せて
NEWSポストセブン
「全国障害者スポーツ大会」を観戦された秋篠宮家・次女の佳子さま(2025年10月26日、撮影/JMPA)
《注文が殺到》佳子さま、賛否を呼んだ“クッキリドレス”に合わせたイヤリングに…鮮やかな5万5000円ワンピで魅せたスタイリッシュなコーデ
NEWSポストセブン
クマによる被害が相次いでいる(左・イメージマート)
《男女4人死傷の“秋田殺人グマ”》被害者には「顔に大きく爪で抉られた痕跡」、「クラクションを鳴らしたら軽トラに突進」目撃者男性を襲った恐怖の一幕
NEWSポストセブン
遠藤
人気力士・遠藤の引退で「北陣」を襲名していた元・天鎧鵬が退職 認められないはずの年寄名跡“借株”が残存し、大物引退のたびに玉突きで名跡がコロコロ変わる珍現象が多発
NEWSポストセブン
本拠地で大活躍を見せた大谷翔平と、妻の真美子さん
《スイートルームを指差して…》大谷翔平がホームラン後に見せた“真美子さんポーズ”「妻が見に来てるんだ」周囲に明かす“等身大でいられる関係”
NEWSポストセブン
相撲協会と白鵬氏の緊張関係は新たなステージに突入
「伝統を前面に打ち出す相撲協会」と「ガチンコ競技化の白鵬」大相撲ロンドン公演で浮き彫りになった両者の隔たり “格闘技”なのか“儀式”なのか…問われる相撲のあり方
週刊ポスト
部下と“ラブホ密会”が報じられた前橋市の小川晶市長(左・時事通信フォト)
《「策士」との評価も》“ラブホ通いすぎ”小川晶・前橋市長がXのコメント欄を開放 続投するプラス材料に?本当の狙いとは
NEWSポストセブン
女性初の首相として新任会見に臨んだ高市氏(2025年10月写真撮影:小川裕夫)
《維新の消滅確率は90%?》高市早苗内閣発足、保守の受け皿として支持集めた政党は生き残れるのか? 存在意義が問われる維新の会や参政党
NEWSポストセブン
滋賀県を訪問された秋篠宮家の次女・佳子さま(2025年10月25日、撮影/JMPA)
《すぐに売り切れ》佳子さま、6万9300円のミントグリーンのワンピースに信楽焼イヤリングを合わせてさわやかなコーデ スカーフを背中で結ばれ、ガーリーに
NEWSポストセブン
送検のため奈良西署を出る山上徹也容疑者(写真/時事通信フォト)
《安倍晋三元首相銃撃事件・初公判》「犯人の知的レベルの高さ」を鈴木エイト氏が証言、ポイントは「親族への尋問」…山上徹也被告の弁護側は「統一教会のせいで一家崩壊」主張の見通し
NEWSポストセブン
女優・八千草薫さんの自宅が取り壊されていることがわかった
《女優・八千草薫の取り壊された3億円豪邸の今》「亡き夫との庭を遺してほしい」医者から余命宣告に死の直前まで奔走した土地の現状
NEWSポストセブン
左から六代目山口組・司忍組長、六代目山口組・高山清司相談役/時事通信フォト、共同通信社)
「六代目山口組で敵う人はいない」司忍組長以上とも言われる高山清司相談役の“権力” 私生活は「100坪豪邸で動画配信サービス視聴」も
NEWSポストセブン