当時の町医者は夜中の往診が多く、看護師代わりに継母が同行していたという事実を知ったのはずっと後のこと。

 6時に家を出て都心にある学校に通うだけで精一杯だった私は、親の事情を理解するにはあまりにも幼すぎました。

「継子いじめ」という言葉は当時の映画や漫画のお決まりのパターンでしたが、私の場合は逆。持っている力を振り絞って、「継母いじめ」です。

 無視をするかと思えば、口を極めてののしる。継母のものを黙って捨てる。それも父のいないときを狙って。それを妹は見ていました。生まれてすぐに継母に抱かれた妹は私とは違い、「誰がなんと言おうと私のママ」でした。その後、何十年も続く私と妹の憎しみ合いは、このときから始まっていました。

◆父が決めた許嫁は京都大学医学部卒

 私には、高校時代に父が決めた許嫁がいました。許嫁というと、「いつの時代?」と笑う人がいますが、父の開業医仲間の間では、ごく当たり前のこと。

「造り酒屋と同じさ。継ぐべきものがあったら、結婚相手は大事だからな」

 父はそう言って、友人の息子で京都大学医学部に通うKさんを家に連れて来ました。彼は大学が休みになるとわが家に遊びにやって来ました。ふたりで庭に出て、咲いている花をのぞき込み、花の特徴などを教えてもらっていたときは、彼の温もりが伝わってきてドキドキしたものです。私が大学を卒業した直後の4月、私たちは結婚しました。

 妹もまた私と同じように、大学を卒業してすぐ、父が決めた耳鼻科医と結婚しました。継母は私たちの結婚の支度をすべて整えたあと、父と離婚して家を出ていきました。原因は“跡取り”になった私にありますが、それを話す気にはなれません。

◆夜中にうめき声を上げて夫は翌朝、亡くなった

 結婚生活は順調でした。高齢になった父を気遣って、夜中の往診は夫が引き継ぎました。結婚して1年半後には長男が、その翌年には長女が生まれました。

 しかし、幸せな日々もつかの間でした。ダブルベッドで寝ていた夫が、夜中に突然、「うぉ~っ」と獣のようなうめき声を上げて白目をむいたので、私は階下の父を呼びに走りました。救急車が来るまで父は必死に蘇生させようとしましたが、翌朝、夫は病院で息を引き取りました。死因は「心臓が突然止まった」ということ以外わかりません。33才の若さでした。

 親族たちは、よちよち歩きを始めた娘をそば目に、「二代続きだ」と目くばせをしていて、そこだけ切り取ったようによく覚えています。

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