香港の最高指導者である行政長官の選挙が3月26日に行われるが、香港の大富豪で経済界に強い影響力を持つ李嘉誠・長江実業会長は2月中旬、「誰に投票するのか」との質問をされた。これに対して、前回の2012年の長官選挙について触れ「選挙の2週間前には誰が当選するのかを知っていた」と発言し、中国共産党政権が推す人物が当選するよう、党中央が水面下で選挙を操っていることを皮肉った。
今回の選挙には3人が出馬を表明。最有力なのは林鄭月娥・香港政府政務局長だ。党政治局常務委員会の序列ナンバー3で、香港問題を担当する張徳江・全国人民代表大会(全人代)常務委員長が「林鄭氏は中央が支持している唯一の候補」と言明しており、香港の親中国系紙「文匯報」と「大公報」も連日、紙面で林鄭氏を支援する論調のニュースを掲載している。
とはいえ、市民の間で最も人気があるのは民主派寄りといわれる曽俊華・前財政局長だが、今回の選挙は親中派メンバーが大半を占める選挙委員会委員1194人の投票によって決まるため、北京の党中央が支持している林鄭氏の当選は動かないとみられる。
こうした状況があるだけに、記者から今回の選挙についての質問を受けた李嘉誠氏が敢えて前回の選挙の例を引いたのかもしれない。中央政府の支持する候補者の優位は覆らず、中央政府が裏で委員らに根回しして、さも公平な選挙が行われたように見せかけているだけとの意味の発言をしたとみられる。
李氏は前回選挙で落選した候補者に投票。「前回は2週間も前にはもう選挙結果を知っていたが、当日はブレずに支持する候補者に投票した」と記者の質問に答えたという。
李氏は近年、中国本土の不動産物件を高値で売り抜け、その分、欧州を中心に事業を拡大しており、中国メディアは李氏を批判的に報じることが多くなっている。今回の李氏の発言も間接的な中国批判といえるだけに、ネット上では「中国寄りの経済人が多い香港で、唯一信用できる香港経済界の大物は李氏だけだ」などと李氏の対中姿勢を好意的に受け止める書き込みが多い。