もし、「野村・モルガン」構想が実現していたなら、信託銀行は、バブルの時代にファンドトラストを使った傍若無人の振る舞いをしただろうか。野村証券は営業特金や新設したノンバンクで株式、不動産融資にあそこまで深入りしただろうか?
また、日本興業銀行がもしも佐藤徹のアドバイスに乗り、新しい金融機関への転換を図っていたなら、大阪の料亭経営者・尾上縫(*注)に2500億円という尋常でない割引金融債を売り込むという、異常な事件は起こっていただろうか?
【*注:1980年代、大阪の一料亭経営者ながら、数千億円を投機的に運用し、「天才相場師」と呼ばれる。バブル崩壊に前後して、巨額詐欺事件にかかわり、1991年に逮捕された】
バブルを1980年代の後半にかけての異常な数年間の物語として総括する人は多い。しかし、彼らはバブルを生み出した人間の物語と金融制度の問題にあまりにも無頓着である。制度の軋みを巧みに利用したバブルは、どのような経過をたどっても、最後にはユーフォリアをもって崩壊にいたる。
米国のトランプ政権の誕生は、民主主義にとっても、資本主義にとっても、国民国家にとっても、「画期」であることは間違いない。そして、トランプにいち早く入りこんだ、安倍晋三の才覚も現時点で否定するわけにはいかない。しかし、トランプと安倍晋三が「Win-Win」のゲームを公言する時、その答えが「バブル」以外にあり得ないこともまた真実である。
【PROFILE】1949年生まれ。京都大学経済学部卒業後、日本経済新聞社入社。証券部記者、編集委員として、バブル期の様々な経済事件を取材。その後、日経ビジネス、日経MJの各誌編集長、大阪本社代表、BSジャパン社長などを歴任。
※SAPIO2017年4月号