「これは勝さんからのご指名です。衣装合わせに行ったら、台本が五、六ページしかない。『あとで口伝えでやるから、大丈夫だ』って。現場に行って衣裳を着ると必ず勝さんの楽屋に行って確認してもらいました。それで『ここはもうちょっと汚してくれ』って、私の顔を触りながら自ら汚しをしてくれるんです。

 目の見えない座頭の人たちが茶屋でお団子を食べる場面があるんですが、その一人が団子を口じゃなくて顔に当てるという芝居をしていまして。その時、勝さん、頭を叩いて『バカにするな、この野郎!』って物凄く怒りましたね。『目をつぶってみろ! 目をつぶっても、口の位置は分かるだろう!』って。

 それで勝さん、自分で団子の食い方の見本を見せるんです。鼻で息を吸い込みながら団子を食べる。『目が見えないということは、匂いで分かるんだ。匂いで喰うんだよ。だから、口から鼻に匂いを送って味わうんだ』そうおっしゃっていました。

 音に関してもそうでした。『色が見えないから、音で聞き分ける』と。雨が降り出す場面では、喋りながら一瞬止まってから『雨が降ってきたな』と言う。その『耳で気づく芝居』の間がしびれるくらい良かった。とても勉強になった作品でした」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/藤岡雅樹

※週刊ポスト2017年4月7日号

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