「本屋をやっていると毎日が楽しいですよ。朝来ると、取次会社から届いた、新しい本が詰まった段ボールを開けて、“こんなのが出たんだ”とワクワクしますし。お客さんに“こんなちっちゃい本屋に、こんな本があるんだね~”と言われるのも嬉しいですね。毎日張り合いがありますよ」
と店長の岩楯幸雄さん(67才)。一方で、書店の経営の厳しさを肌で感じているという。
「毎日、大手取次会社と神田村(神保町にある小さな取次業者が集まっている場所)に仕入れに行くんですが、昔は同業の仲間がたくさんいた。でも、その頃の仲間はもうみんな廃業して、今はウチだけになっちゃった。とくにこの10年くらいで雑誌が売れなくなって、経営はいよいよ苦しいですね」(岩楯さん)
幸福書房の営業時間は朝8時から夜11時までで、休みは元日のみ。岩楯さん夫妻と弟の敏夫さん夫妻の4人で切り盛りしているが、「それだけ長い時間開けて、貯金を切り崩しながらようやく食べていけるという状況です」と岩楯さん。
2年前までは長男が午後6時から午前1時まで店を手伝っていたが、今は違う仕事をしている。
「私ももう年なので、将来的には店を任せようと思って、いちばん忙しい時間帯を手伝ってもらっていたんですが、給料が払えなくなったので、“悪いけど…”と辞めてもらったんです。息子は新しい仕事を始めて2年、あっという間に私らの給料を超えてますよ。土・日の休みもちゃんとあるのにね」
岩楯さんはそう言って寂しそうに笑った。岩楯さんは毎週日曜日の午前中は散歩に出かけ、書店があると入ってみるのが常だ。
「棚の上段が返本で空いているのを見るのは忍びないですね。うちみたいな個人でやってる本屋は昔はよくありましたけど、今は閉店している店が増えた。閉店したところは、東京都の本屋が網羅的に載っている『東京都組合五十年史』という本にバツ印をつけるんだけど、もうバツ印がいっぱいで…」(岩楯さん)
※女性セブン2017年4月27日号