質問者が変わる度に座り直し、背筋をぴんと伸ばしまっすぐ相手に向かう浅田は、その姿勢のまま、どんな質問にも真摯に応えていた。だが、日本スケート協会や平昌五輪の女子フィギュアスケートの枠の質問には、答えるのが難しかったようだ。眉の上に力が入ったのだ。眉がかすかに下がり、眉の上の筋肉がわずかに盛り上がったことから、これらの質問には困惑していたのが見て取れた。
傍から見ているだけではわからない何かが、そこにあるのだろうか? 突飛な質問に答えようと頭を悩ます時は口をすぼめる浅田が、これらの質問には眉の上を強張らせて、言葉を選んでいたのが印象的だった。
さてこの会見中、浅田の視線は何度か左に向いた。左側を見ただけなら、気に留めることはない。だが、向けられた視線はそこで留まる。次の質問に備え、顔だけが正面に向くのだが、視線は左側の誰かをとらえたままだ。そして、視線を正面に戻しながら口元で微笑んだのだ。そこにいたのは、マネージャーなのだろうか?
全日本のトリプルアクセル挑戦に「挑戦して終われたのは自分らしい」と述べた時も、「今後の具体的なプランについて、これからか?」と聞かれ「はい」と言った時も、左にいた誰かに視線を残したまま微笑み、まるで互いにそうだよねと目でうなずきあったような感じだった。きっと、自分が信頼を寄せ、自分の決意と今の気持ちを理解し、支えてくれる相手だったのだろう。
結婚の予定には「ないです」と言いながら、チラリと左に視線が向いた。司会者が次の質問者を探す間に、自分でマイクを持ち直すと「お相手がいれば、その方と一緒に」と視線が左をとらえ、左側に頭を振り、ちゃめっ気たっぷりに「一緒に帰れたんですけどね」とマイクの先端を左手で包み込むように握りしめて笑った。
恋人はいないと断言したが、なんとも意味深な笑いと仕草ではないか。視線の先にいた誰かが知っているのかもしれない。
そして最後の挨拶。言葉につまり涙があふれそうになり、浅田はまた左を見て誰かと視線を合わせた。まるで、その誰かと会見では涙は見せないと約束でもしたかのように笑顔を作って見せた。そして、込み上げる感情を落ち着かせるため、くるりと後ろを向いた。前を向いた彼女は、最後まで涙をこらえ笑顔で会見を終えた。
いったい真央ちゃんの左側には、誰がいたんだろう…?