「ポエジーとは、やはり人間の弱さに潜む美しさだと思います。本作もそうですが、主人公は何故、こっちの道に進んだほうがいいのに、別の道を進まなければいけないのか。それは傍から見ると馬鹿なやつだけれど、その選択が一番人間らしいというか、人の最も尊いところじゃないのかなという気がしています」
降旗はあまり多くを語らない。質問を投げかけると木村が答え、横で降旗が頷くといった場面もあるほどだ。寡黙で物静かな降旗と、饒舌で感情豊かな木村。撮影現場でも、全体を見渡し穏やかに指揮するのは降旗で、声を荒らげて指示を出し「カット!」と叫ぶのは木村だ。まさに静と動。だからこそ、歯車がピタリと合うのだろう。
木村が「監督が降旗さんだったら、今回の映画の狙いが何かってことを一言二言聞けば、それ以上話し合わなくても分かるんです。ね?」と同意を求めると、降旗は静かに頷く。
「大ちゃんは僕の分身だと思っているんです。言わなくても僕の撮りたい映画を理解してくれている。最初に一緒に撮った『駅 STATION』の撮影がそんな感じで始まり、それが今もずっと続いています。それは、9年ぶりであっても変わりません」
『追憶』の撮影は昨年の3月中旬から3週間かけて行なわれた。デジタル撮影が主流になった今でも、降旗・木村コンビの映画はテスト1回、本番一発勝負のフィルム撮影にこだわる。リハーサルを入念に重ね、1シーンで複数のカメラを同時にまわす。撮影期間は短く、何度も撮り直しはできない。だからこそ撮れる表情や風景があり、抒情が生まれるのだろう。