歴史実録読み物の強みは大胆な推論ができることだ。通説の虚をついて、ありえた実像を提出することができる。古めかしい文体を手直しすると、かぎりなく司馬遼太郎に近づいていくだろう。
「社界魔」とは悪いやつのポートレート。さしあたり掏摸と詐欺が紹介されているが、当今の「ふりこめサギ」とちがって、大いなる熟練と知能集団のワザだったらしいのだ。「さて詐欺師とてもとより生れ落つるからの詐欺師にもあらざれば……」。そこに至るまでの「順序」が諄々と説かれている。「伝手を求めて懇意となり、その名前を利用し……」平成の世相絵解きとかさなってくる。
※週刊ポスト2017年4月28日号