2016年の山田監督『家族はつらいよ』、もうすぐ公開の『家族はつらいよ2』では、夫役の橋爪功はじめ『東京家族』と同じ配役であるものの一転して喜劇となった。
「喜劇だと聞いた時は、誰も喜劇役者はいないから大丈夫かしらと思いました。でも、山田監督からは『喜劇ですけど、面白くしようなんて思わないでくださいね』と言われて、『監督の腕で喜劇になさるんだから、私たちは普通にしていればいい』って思うようになりました。
橋爪さんとは、『東京家族』の前も長く連れ添った夫婦役を映画で二本やっていました。撮影以外では電話番号も知らないくらいなんですが、現場だと本当に雰囲気が上手く出ます。
それは、『舞台を知っている』という共通の基盤があるからだと思います。ですから、最初は『山田監督は怖い』とみんな怯えていた時も、橋爪さんは『僕たちは舞台でさんざんやられてきたから、何を言われても平気だよね』って言ったのね。そういうところは分かり合っている、みたいな意識はあります。
この歳までお仕事をいただけるとは思ってもいませんでした。この歳でもやれる役があるというのは凄く幸せです。現場に行って役になっている時は一番ノビノビできるんですよ。実生活は面白いことも趣味もないですから本当にどうでもいい。役をもらえると凄く楽しくなります。最初の頃から考えると嘘みたいな話ですが、この仕事に巡り合ってよかったなと思います」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2017年5月26日号