人間側が残り2局を勝ったとしても、「勝負として、続くとは思っていない」というのが、多くの棋士の見方だろう。負かされるのは時間の問題なのだと。
仮にAIが3連勝することになれば、「AI対人間」は一応の決着になる。目的を果たしたGoogle社が撤退するかもと、まことしやかな噂も流れている。
「そうなったとしても、棋戦や棋士の価値が落ちるとは思っていません。私個人の意見として、他のスポーツを見ていても、人間同士の戦いがおもしろいと思うのです。人間同士の極限の戦いが人を感動させる。ミスも含めてです」と、井山六冠。
たとえば野球でも、プロ野球に比べてレベルが劣る高校野球があれだけ人々を感動させる。また、ピッチングマシンとバッティングマシンの戦いなどは一瞬の興味は湧くだろうが、感動は呼ばない。感動するのは、それを開発する人間の努力、悪戦苦闘に対してだ。
また、井山六冠は、「AIに勝つのは難しく、ものすごいレベルだと思いますが、囲碁を解明しているレベルではありません」と断言した。
かつて、一時代を築いた故・藤沢秀行名誉棋聖の逸話に、興味深いものがある。
「囲碁の神様が100わかっていたとするなら、あなたはいくつわかっているのか」と問われた秀行先生。答えは「6」。「10のうち」ではない。「100のうち6」と言ったのだ(晩年、「6は思い上がりだったかもしれない。2か3だね」という言葉も残されている)。強くなればなるほど深淵な世界がわかるということだろう。
この質問を井山六冠にもぶつけてみた。「100のうち、AIはどれほどで人間はどれほどだと思っていますか」と。すると、こんな答えが返ってきた。
「手法が増えたなどの進歩はありますが、人間(トッププロ)の本質的な強さは秀行先生のときと変わらないと思います。
私は100がどれくらいのものかわからないので、なんともいえませんが。AIははっきり差がありますので少し上くらいでしょうか。たとえAIが50わかっているとしても100にはまだまだ。囲碁を解明しているレベルではないのです」
今回の三番勝負は勝ち負けと同じくらい、いやそれ以上に、アルファ碁の打つ手に注目しているのだ。
棋士ら囲碁界は、AIをうまく利用し活用したいと考えている。囲碁AIの強化は、人間の進化の助けになると信じている。
■文/内藤由起子(囲碁観戦記者)