既に事故による負傷例も報告されており、地域によってはエスカレーター内を歩行禁止にしている所もあるが、まだ多くは歩行可のままだ。この危険な愚行が広まりだしたのは今世紀に入ってからだ。何がきっかけでそうなったのだろう。私が知る限り、その先駆的提唱者は、ジャーナリストの本多勝一である。
本多の『ジャーナリスト党宣言(貧困なる精神J集)』(1993、朝日新聞社)に、二本の小論が収録されている。「エスカレーターの立ちんぼ諸君へ」と「障害者への無神経国家・日本」だ。
前者には、こう書かれている。エスカレーターに「二列の幅があったら一方(日本では右側)を歩行者用にあけておくのが世界の常識である」。ところが「右側をあけない鈍感な『立ちんぼカカシ』による迷惑が一段とひどくなった」。
後者では、自分の妹が重度身体障害者で、駅の階段などでは難儀している体験を語り、エスカレーターの片側あけとともに、エレベーターの設置を提言している。このエレベーター設置については、私も賛成である。そして、本多提言から二十年以上経た現在、ほとんどの駅にエレベーターが設置され、電車の乗降にも駅員による介助が行なわれるようになった。