「だしをとった昆布は、ふたたび干して、浅漬けをするときに入れる、かつお節は炒って納豆にまぜて辛子をすこし」
ここでは土鍋の出番がドラマになる。ロールキャベツがアリアを歌うだろう。小ジョッキのビールとともに最初の本をつくってくれた編集者が、あの世から出張してくる。語り手はスーパーで買ってきたモノたちを素材にして、手料理のリズムで語らせ、自分を含めたまわりの世界が、大きな一つの生命体のつながりにあることを信じさせてくれる。細い腕とペンの力で、そんな微妙なこころの状態を書きとめた。
※週刊ポスト2017年6月30日号