さだの自伝的小説からは「ぬくもりと優しさ」が感じられるという
その上で同作についてはこう言及している。〈どの場面を切り取ってみても優しさがある。感謝がある。登場する人物にしても、ただ単純に褒めるだけではなく、面白い特徴を捉えて魅力的な人物として紹介してくれている。本当に自分と関わった人達を大切に思っているのが伝わってくる〉──。
さらに、同作の魅力について、〈この物語のぬくもりは、この小説のなかだけにとどまることはなく読者である僕自身の人生とも繋がっていく。この視点を拝借して自分の日常や人生を振り返ったとき、今までとはまた違った面白さや魅力を自分が生きてきた日々のなかから発見することができる〉と紹介している。
同じタレント作家として、ベストセラーを何作も世に送り出してはいるものの、世代も本業も異なる二人。はたして接点はあったのだろうか。同じく「解説」の中で又吉は自身の過去をこう打ち明けている。
〈小学生の頃、僕は『無縁坂』を繰り返し聴いて泣いていた。その曲をきっかけに、さださんの曲をいろいろと聴いてきた。子供の僕には経験したことがないような状況でも、なぜか泣ける。詩のなかにある、物語を呼び起こす力はなんだろうと不思議に思っていた。この、『ちゃんぽん食べたかっ!』を読んで、その理由の一つがわかったような気がする〉
さだの作詞・作曲した『無縁坂』が発表されたのは、又吉が生まれる以前の1975年のこと。『無縁坂』は、年老いた母親に対する少年の想いを歌った楽曲だ。又吉も母親想いで知られるが、二人の「文才」を結びつけたのは、母親に対する特別な共通感情だったのかもしれない。