小笠原医師の著書には、“めでたいご臨終”を遂げた人の例が多数載せられている。遠藤崇史さん(仮名、享年62)は、旅立つ8日前に小笠原医師とピース写真を撮った。
大腸と食道のがんと、肝臓への転移が見つかって総合病院を受診した遠藤さんに、主治医は入院での抗がん剤治療を勧めた。しかし、「抗がん剤で治るのか?」と問い詰めると、「治りません。1~2か月の延命でしょう」と説明された。遠藤さんは一級建築士で、大きな仕事を請け負ったばかりだったが、入院すると仕事ができなくなる。
「数か月寿命を延ばすより、仕事をやりきって悔いなく逝きたい」と思った遠藤さんは、入院治療を断わり、小笠原医師のもとを訪れた。
通院で痛みを取って仕事を続けながら、以前から行きたかったお寺参りにも夫婦で出かけた。5か月を過ぎて体力が落ちてきたので、外来から在宅ホスピス緩和ケアに切り替えたが、そのころには仕事を無事やり終え、残された時間を友人や家族と過ごすことができた。遠藤さんは小笠原医師にこう語った。
「死ぬのは怖くないですよ。怖いのは不安があるからでしょ。不安はありません、幸せですよ。充実しているから。上手な死に方っていうのはおかしいけれど、がんは案外、いいもんですね」