小笠原:病院では、もうすぐ亡くなることがわかっている終末期の患者さんを機器につないで延命することがよくあります。そうすると苦しいから、患者さんから笑顔が消えるんです。でも、無理に延命しないで、終末期を家で過ごせば、もっと穏やかに旅立てるはずなんですよ。ぼくは終末期を家で過ごすことができなくなったことは、20世紀後半の日本の最大のマイナスだと思っています。
室井:余命がわずかになったら、1日でも無駄にしないで、その人らしい生活があった方がいいですよね。
小笠原:そうなんです。病院はファイティングポーズをとって病気と闘う場所です。勝てる相手なら闘った方がいいけれど、どう見ても負ける人が残り少ないいのちを使うと、無残な敗戦死になってしまいます。家にいれば、「自分はこう生きたい」という想いを叶えながら「希望死・満足死・納得死」ができるんですよ。
室井:この本を読んで驚きましたが、末期がんなどの終末期の人が病院から自宅に戻って、先生がたの緩和ケアを受けると、ほとんどの人が入院していたときより元気になって、予想よりずっと長生きしています。
小笠原:だいたい3割の患者さんは寿命が延びます。
室井:不思議ですよね。
小笠原:ぼくたちの在宅ホスピス緩和ケアは、いのちが喜ぶケアです。まずモルヒネなどを上手に使って、痛みと痛みへの不安を和らげます。そして体を拭いたり、マッサージをするなど、人と人がかかわるケアをします。心が通うことによって患者さんはうれしくなる。うれしくなると生きる希望がわいてきて、力がみなぎってくる。それが延命効果につながるんです。
室井:中には奇跡のように回復されたかたもいました。
小笠原:最初はぼくも奇跡だと思いましたが、今では常識になっています。病院で末期の診断をされたのに、20年以上も生きた人もいます。退院したから生きられたんですよ。
※小笠原文雄先生が7月17日、「なんとめでたいご臨終の迎え方」をテーマに、東京・小学館で講演会を開催し「在宅医療」の奇跡と「いのちの不思議」について話す予定。
詳しい内容はhttps://sho-cul.comで。
※女性セブン2017年7月13日号