だが、裁判官は、須田が家族に「九分九厘、植物状態だった」と言ったことに対し、「衝撃的で不正確な説明」、「配慮に欠ける対応をして家族らとの意思疎通を欠いた」と押し切った。だが、須田に反論の余地はない。当時の弁護士は、須田に口を酸っぱくして言った。
「被告人なのだから神妙にしていてください。けっして笑顔を見せたりしないように」
実際は、どうだったか。患者が息を引き取る当日の午後、須田が土井さんの妻と交わしたという会話を、著書をもとに再現しよう。
「この管をはずしてほしいんです」
「えっ? これを抜いたら呼吸できなくて生きていけませんよ」
「わかっています」
「早ければ数分で最期になることもあるんです。奥様ひとりで決められることではないんですよ。みなさん了解してらっしゃるんですか?」
「みんなで考えたことです」
だが、裁判における供述では、土井さんの妻は、この時間帯に病院には行っていないと言った。つまり、抜管は、「医師の独断」によるものだったという判断が下された。さらに、須田にとどめを刺したのが現場に居合わせた一人の看護師の証言だった。
その看護師は、筋弛緩剤を注射したのが自分であって、それを指示したのが主治医の須田だったと供述。ミオブロックを投与した量も、即死に至る3アンプルだと証言した。実際に投与した1アンプルの3倍だった。その状況について、須田は、ため息まじりの声を漏らして語った。