◆「8000歩、20分」の法則

 蓄積された膨大なデータからは、これまでの常識と異なる数々の知見が得られたという。たとえば、青柳氏はこの研究によって、「運動するほど健康になる」という認識が誤りであることを示す事例を数多く見てきた。

 冒頭の女将の例がそうだ。1日1万歩以上でも骨粗鬆症になったのは、毎日の歩行の「強度」に問題があったからだと青柳氏はいう。

「女将は和服で一日を過ごし、宿泊客にうるさく思われないようにいつもすり足で、小股で音を立てないように歩いていました。歩数は多いけど、息があがったりは絶対にしない運動の強度だった。そうすると、どれだけ歩いても健康にはなれません。彼女の場合は、常に館内にいて日光に当たらなかったことも骨を弱くした原因の一つです」

 その反面、強度の高い「激しすぎる運動」も健康を害するとわかってきた。

「メタボ対策のため40代でトライアスロンを始めた男性は9度目の完走を目指すレース直前に太ももの内側やふくらはぎに違和感が生じて、手足がしびれるようになった。診断の結果は動脈硬化。激しい運動によって発生した活性炭素が血管を傷つけ、修復が間に合わずに細くなった血管に大量の血が流れて詰まったことが原因です。

 このような激しすぎる運動で生じた活性酸素が遺伝子に傷をつけ、糖尿病や認知症、がんといった重い病気のリスクが増すこともあります」(青柳氏)

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