近著『名字でわかる あなたのルーツ』が話題となっている姓氏研究家・森岡浩氏によれば、名字の「読み方」で先祖の出身地がわかるという。同書で解説されている「読み方の地域性」の一部を紹介する。
【2つの読みが拮抗する「河野」】
「河野」のルーツは愛媛県にある。ここで栄えた越智氏という古代豪族の諸流を中世に統一したのが「河野」で、鎌倉時代に勢力を拡大した。
その愛媛県では河野は「こうの」と読み、瀬戸内海を挟んだ広島県でも「こうの」が主流。ところが、少し離れた徳島県や宮崎県では圧倒的に「かわの」。そして、関西より東の都道府県では、茨城県を除いて「こうの」が多い。
つまり、ルーツの愛媛県では「こうの」だが、周縁では「かわの」に変化し、これがより遠い地域になると「こうの」に戻っている。全国では「こうの」が53%で「かわの」が47%と拮抗している。
【東西で分かれる「東」】
この名字には「あずま」「ひがし」「とう」という読み方がある。ほとんどは「あずま」か「ひがし」だが、この2つはともに多く、全国では57%が「ひがし」で、43%が「あずま」となっている。
実は2つには若干意味の違いがあり、「ひがし」は単に方位、方角を示しているが、「あずま」は京都からみて東の地域一帯を指す言葉でもあったため、「あずま」と読む名字は近畿以東に多く、中国以西では圧倒的に「ひがし」なのである。
【字の好みで分かれた「斎藤」と「斉藤」】
「斉藤・齊藤」は西日本に多く、「斎藤・齋藤」は東海から関東以北に多い。しかし、「斉藤」が主流の西日本でも、福井県では「斎藤」が圧倒的多数。これは、「さいとう」一族のルーツが福井県であるため、本来の書き方である「斎藤」が多いのだと考えられる。
なお、西日本に本来でない書き方が多い理由は謎だが、一般的に西日本のほうが簡単な漢字表記を好む傾向がある。