どうしたら多くの高齢者の夢、「在宅ひとり死」は叶えられるのか──社会学者・上野千鶴子さんが在宅医療の医師・小笠原文雄さんに67の質問をぶつけてベストセラーとなった『上野千鶴子が聞く 小笠原先生、ひとりで家で死ねますか?』から4年。
ますます在宅医療の必要性が増し、注目度も高まっている。上野さんは小笠原さんの新著『なんとめでたいご臨終』(小学館)をどう読んだのか。人生の最期を家で朗らかに過ごす方法を語りあった。
上野:小笠原さんはこの本に、ご本人にきちんと告知する、事実を知らせる、それと、ご親族の皆さんの同意を得るということを、くりかえし丁寧に書いておられます。私もそこは、本当に大事だと思いました。意思決定と合意のプロセスをすっとばしては先に進めません。加えて、この本には思い返すと悔やまれるような失敗例も書いていらっしゃいますね。そこも読み応えがありました。
小笠原:ぼくも最初から在宅医療がうまくいったわけではないので。昔は失敗したけど、成功体験を積むにしたがって、だんだん失敗しなくなっている。そう実感していますので、昔のお話もさせてもらいました。
上野:小笠原さんが胸の潰れる例として書かれているものに、「お義姉さん、ちょっと見学に行こうね」と言って、そのまま施設に置いていかれてしまったケースがありました。
小笠原:「何があっても家にいたい」と願う85才のひとり暮らしのおばあちゃんですね。ある日、けがをして義妹に救急車で病院に連れて行ってもらった後、その足で施設に入れられてしまったんです。その2日後、施設から緊急の電話があって駆けつけると、おばあちゃんが悲痛な声で「だまし討ちにあった。ああ死なせて!」と叫んで、かける言葉もありませんでした。4時間後に亡くなって、あれは本当にかわいそうでしたねぇ。
上野:無念さに胸をかきむしられての全身の抗議だったんでしょうね。
小笠原:こんな例もありました。息子さん夫婦に頼まれて、寝たきりになっていた余命数日の末期がんのおばあちゃんを緊急退院させて、家に帰ったらご飯を食べて歩けるくらい元気になったんです。ところが、親族が見舞いに来た時には寝たきりで死にそうな姿だった。すると、「3日前は元気だったのにおかしい。ヤブ医者め、変な薬をのませただろ、カルテを見せろ」と騒ぎ出して。
上野:医者に言うんだ、ヤブって。