◆「ムンテラ」が上手な医師

上野:嘘は言いたくないとか、患者さんと信頼関係を作りたいというのは、小笠原さんの信念ですか?

小笠原:どうでしょう。循環器だったら、心臓が止まった人を生き返らせ、歩いて退院させることもできる。「やったー」って喜べると思ったんですよね。

上野:開業して、在宅ホスピスや緩和ケアをすると、がん患者が山のようにいらっしゃるでしょう。

小笠原:だから開業してからですよ。がん患者と本当の意味で向き合えるようになったのは。時間もたっぷりあったので、告知後のフォローも時間をかけて丁寧にやれますからね。

上野:じゃあ、ご自分がかつて言ったことに、今、ご自分で責任を取られているわけだ。

小笠原:そう、そう。上司に「告知はやめとけ」と言われたのが、ずっと心に引っかかっていたので。

上野:その話は今回初めて聞きました、ご立派ですね。

小笠原:ぼくは、嘘だけは言うまいと心に誓ってます。患者さんが何も知らされず、誰とも信頼関係がもてないまま死んでいくなんて、これこそ究極の孤独死ですからね。

上野:小笠原さんのムンテラ(ムントテラピー。ドイツ語で口先療法のこと)のうまさは、余人に真似ができないと思っています。患者さんに「私、死ぬんですか?」と聞かれて、「あんたがそう思うんやったら、そうやろな」と言ったり。それはやはり、小笠原さんがお寺の生まれで、9才のときに得度し、法話をたくさんやってこられたからなのかなと思っているんですが。

小笠原:ぼくは僧侶なので法事や葬式にも伺うんだけど、最近まで法話ってやったことがなかったんです。

上野:やっと最近? それじゃ講演で磨いた芸で?

小笠原:講演での経験と、上野さんにしごかれた芸で(笑い)。

上野:先生のムンテラのうまさは、「人は死に時を選ぶんや。好きな人が来る時まで待ってるんだ」とおっしゃるかと思えば、別の時は「好きな人が休まないと死ねないんや」とおっしゃったりする、その臨機応変さ。状況に合わせて、「ほんまにうまいこと言わはるなぁ」と、ほとほと感心しているんです(笑い)。

小笠原:長年、人を看取っていると、どちらもあるんですよ、本当に。実感として、ぼくが感じているままの言葉を話しているだけで、頭で考えたものじゃないんです。

撮影/杉原照夫

※小笠原文雄先生が7月17日、「なんとめでたいご臨終の迎え方」をテーマに、東京・小学館で講演会を開催。
詳細はhttps://sho-cul.comへ。

※女性セブン2017年7月20日号

関連記事

トピックス

1年ほど前に、会社役員を務める元夫と離婚していたことを明かした
《ロックシンガー・相川七瀬 年上夫との離婚明かす》個人事務所役員の年上夫との別居生活1年「家族でいるために」昨夏に自ら離婚届を提出
NEWSポストセブン
“高市潰し”を狙っているように思える動きも(時事通信フォト)
《前代未聞の自民党総裁選》公明党や野党も“露骨な介入”「高市早苗総裁では連立は組めない」と“拒否権”をちらつかせる異例の事態に
週刊ポスト
『あんぱん』“豪ちゃん”役の細田佳央太(写真提供/NHK)
『あんぱん』“豪ちゃん”役・細田佳央太が明かす河合優実への絶対的な信頼 「蘭子さんには前を向いて自分の幸せを第一にしてほしい。豪もきっとそう思ったはず」
週刊ポスト
韓国アイドルグループ・aespaのメンバー、WINTERのボディーガードが話題に(時事通信フォト)
《NYファッションショーが騒然》aespa・ウィンターの後ろにピッタリ…ボディーガードと誤解された“ハリウッド俳優風のオトコ”の「正体」
NEWSポストセブン
「第65回海外日系人大会」に出席された秋篠宮ご夫妻(2025年9月17日、撮影/五十嵐美弥)
《パールで華やかさも》紀子さま、色とデザインで秋を“演出”するワンピースをお召しに 日系人らとご交流
NEWSポストセブン
立場を利用し犯行を行なっていた(本人Xより)
【未成年アイドルにわいせつ行為】〈メンバーがみんなから愛されてて嬉しい〉芸能プロデューサー・鳥丸寛士容疑者の蛮行「“写真撮影”と偽ってホテルに呼び出し」
NEWSポストセブン
佳子さまを撮影した動画がXで話題になっている(時事通信フォト)
《佳子さまどアップ動画が話題》「『まぶしい』とか『神々しい』という印象」撮影者が振り返る “お声がけの衝撃”「手を伸ばせば届く距離」
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(左/共同通信、右/公式サイトより※現在は削除済み)
《“やる気スイッチ”塾でわいせつ行為》「バカ息子です」母親が明かした、3浪、大学中退、27歳で婚約破棄…わいせつ塾講師(45)が味わった“大きな挫折
NEWSポストセブン
交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
個別指導塾「スクールIE」の元教室長・石田親一容疑者(公式サイトより※現在は削除済み)
《15歳女子生徒にわいせつ》「普段から仲いいからやっちゃった」「エスカレートした」“やる気スイッチ”塾講師・石田親一容疑者が母親にしていた“トンデモ言い訳”
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
「週刊ポスト」本日発売! 「高市総理を阻止せよ」イカサマ総裁選の裏ほか
NEWSポストセブン