マイルドハイブリッドシステム搭載のフォード「フォーカス」
では、ボルボのプランはショボい話を大げさに言い立てただけなのかといえば、それも違う。マイルドハイブリッド化は、CO2規制が強まる一方でディーゼルエンジンが使いにくくなる欧州規制をクリアするためのベースになるものだが、それだけでは2021年にCO2排出量を平均95g/km以下にするという欧州の新規制をクリアできない。
規制クリアに向けてボルボはPHEVのラインナップを急速に増やしているが、それに加えてエンジンを持たないBEVの強化も狙うという。ボルボはポールスター(北極星の意)という高性能モデルのブランドを持っているが、そのポールスターを今後、電動高性能車の専用ブランドにするという計画を今年6月に発表した。こちらの狙いは、アメリカのテスラモーターズが開拓者となった高級・高性能EV市場だ。
ボルボは大衆車より上の価格帯で戦うプレミアムセグメントに属するブランドだが、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディのいわゆる“ドイツ御三家”と比べるとブランド力は弱い。
だが、昨年発売した大型SUV「XC90」の中で出力400馬力以上のPHEV「T8ツインエンジン」の引き合いが予想をはるかに超える水準であったことなどから、高級EVのカテゴリーは攻略可能と判断したようだ。もちろんBEVでテスラと戦うにはパフォーマンス、情感の両面で相当魅力的なモデルを出す必要がある。
このようにボルボが打ち出したオール電動化戦略の中身は、ドラマチックなイメージとは裏腹に、低コストなマイルドハイブリッドで販売スケールを担保しながらBEV、PHEVを増やしていくという手堅いものだ。
ボルボがEVを当て込む動機のひとつに、親会社の吉利グループが拠点を置く中国市場でのEV需要拡大があるとみる向きもある。が、昨年、中国でEVが激増したのは手厚い補助金政策によるもので、補助金が絞られた今年の上半期は一転、昨年比で半減以下となるなど、政府の胸先三寸の感が強い。
電動化によるクルマの脱石油への取り組みは長期的には強まっていくであろうが、そのトレンドに自動車メーカーがいつ乗るのかはまだ見えていない。その中で、普通のクルマの時代が長く続いても早期にEV化が進んでも両対応できるという、小規模メーカーならではのボルボのオール電動化ストラテジーが顧客にどのように受け入れられていくのか興味深い。
■写真提供/井元康一郎