ボルボの戦略は、コンベンショナルなクルマとプラグインカーの両取り作戦と言うべきものだ。まず、全車電動化のなかで最も多数を占めるとみられのはプラグインではないHEVだが、これは実は欧州ではすでに登場済みの技術によるもの。ルノーが昨年秋に先陣を切ったマイルドハイブリッドだ。
今日、一般的な乗用車はボンネット内に電圧12Vの鉛蓄電池を搭載している。それに対してマイルドハイブリッドは48Vのリチウムイオン電池パックを積む。
エンジン側には出力15kW(約20馬力)の電気モーターがセットアップされ、一般的な足踏みクラッチとは異なるリモコン式の半自動クラッチと協調制御しながら走行中にエンジンを止めて空走したり、加速時に電気モーターでエンジンを助けたり、ブレーキ時に発電して電力を蓄えたりするというものだ。
48Vという電圧はそれが技術的な理想値ということで決められたわけではなく、欧州の高電圧規則に引っかからない範囲ということで決まったもの。バッテリーも小型で、長い距離をEV走行できるわけではない。トヨタ、ホンダ、日産自動車のようなストロングハイブリッドと呼ばれる本格HEVや、欧州メーカーがラインナップを拡充しているPHEVに比べると、その能力はささやかなものだ。
しかし、実際にドライブしてみると、このマイルドハイブリッドは意外に馬鹿にできないものがある。
電気モーターの出力やバッテリー容量はホンダがかつて「シビックハイブリッド」や「CR-Z」などに搭載していた、ややスペックの高いマイルドハイブリッドと同等。それでいてバッテリーパックのサイズは小さめのアタッシュケース程度で、制御システムも非常に小さい。コストも安いのだという。
筆者は2015年冬、ドイツの自動車部品メーカー、シェフラーとコンチネンタルの2社が共同開発したマイルドハイブリッドシステムをフォード「フォーカス」に組み込んだ実験車を運転してみた。エンジンの改良なしでCO2排出量を114g/kmから欧州2021年規制の95g/kmに削減したというのが両社のセールストークである。
実験車の変速機は6速手動であったが、クラッチペダルをリリースするとアイドリングストップ状態からエンジンが起動し、半クラッチ制御を自動的に行いつつ発進する。普段の変速は普通のクルマとまったく変わらないのだが、スピードが上がってアクセルペダルから足を離すと、今度はクラッチが自動的に切断され、エンジンが止まってそのままクルマはすーっと空走する。アクセルペダルを踏むと、ふたたびクラッチが自動接続され、通常のドライブ状態に戻る。
面白いのは停止時だ。時速0km/hまで減速すると、ペダルを踏まなくてもクラッチが自動切断されてアイドリングストップ状態になる。シフトレバーを1速ないし2速に入れてアクセルペダルを踏むと、エンジンが起動して半クラッチスタートをクルマが勝手にやってくれるのだ。
シェフラーとコンチネンタルの技術者によれば、2018、2019年頃にはこのシステムは自動変速機にも内装される見通しであるという。全グレードHEV以上というボルボの新モデルの登場時期が2019年という話とつじつまが合う。言い換えれば、ボルボの全車電動化宣言は、今後の自動車技術のロードマップをちょっと先取りしただけの話でもあるのだ。