海外の研究を調べてみると、フィンランドやハワイなどの調査では、非飲酒層よりも、たまに嗜む程度の低頻度飲酒層のほうが、認知障害リスクは低いという調査結果もある。飲み過ぎがよくないのは間違いないとしても、アルコールは少量であっても害であると言い切るのはいささか乱暴な段階なのもまた事実なのだ。
それよりも昨今、気になるのは、今回のように「酒で脳萎縮」という研究結果が発表されると「脳萎縮ということは認知症」「アルコールは体に悪かった」という論調一色に塗りつぶされてしまうことだ。
例えばこの世から飲酒や喫煙の習慣がなくなり、人類がいま以上の健康を手に入れたとしても、脳の萎縮や認知機能の低下はいずれ加齢によっても進むのだ。
「飲みゆにけーしょん」とか「酒は百薬の長」という言葉にも象徴されるように、酒はコミュニケーションの円滑化などQOL(※)向上に寄与してきたはずだ。嗜好品と健康にまつわる研究は、体に及ぼす機能面が中心となるのは当然だとしても、ライフスタイルとしてはどんな健康・長寿も、QOLが伴わなければ味気ないものになってしまう。
【※クオリティ・オブ・ライフの略。人生の質や社会的生活の質を指し、人がどれだけ人間らしい生活や自分らしい生活を送り、人生に幸福を見出しているかを尺度としてとらえる概念】
たばこを辞め、酒を断つ。禁欲的な暮らしで健康長寿を追い求めても、いずれ加齢は身体や脳の機能を衰えさせていく。充実した「QOL」とは一体どういうものなのだろうか。きっとそこにわかりやすいたったひとつの「正解」はない。