ライフ

百田尚樹氏に94歳の元撃墜王が語った「居眠り」の恐怖

 しかも空中戦で味方の編隊とはぐれれば、帰りはたった一機です。コンパスだけが頼りの洋上飛行です。厚い雲に覆われている時は目印になる島さえ見えません。角度や位置を間違えればラバウルには戻れません。敵襲からの注意を払いつつ、勘だけを頼りに千キロも離れたラバウルに戻らなければならないのです。こんな出撃が週に四回も五回もあったというのですから、いかに体力に恵まれている二十代の搭乗員でも、体力が持つわけがありません。

 本田氏はラバウルからの帰路、横を飛んでいる零戦がすーと高度を下げて落ちていくのを何度も見たと言います。搭乗員が疲労困憊のあまりに眠りに落ちているのです。

 零戦には無線がありません。隣で飛んでいても。彼を目覚めさせる方法がなにもないのです。「起きろ! 目を覚ませ!」と怒鳴っても通じないのです。

 本田氏自身も帰路、強烈な睡魔に襲われたことは数知れないとおっしゃっていました。この時、本田氏のとった行動は凄まじいものでした。出撃の時にドライバー(ねじ回し)をポケットに入れておき、睡魔に襲われると、それで太ももを突いて目を覚ましたというのです。しかし何ヵ月も経つうちに、少々の力で太ももを突いても目が覚めず、その時は、ドライバーで皮が剥けるくらいに突くのだそうです。

 ところが連日の出撃が続くと、やがてそれでも目が覚めなくなるといいます。その頃には太ももは何度も突かれて傷になっています。その傷口にドライバーの先をねじ込んで、初めて目が覚めるというのです。

 聞いているだけで、鳥肌が立つような話でした。同時に、本田氏が「搭乗員の墓場」と言われたラバウルで生き残った理由がわかりました。

※井上和彦氏・著/『撃墜王は生きている!』より

関連キーワード

関連記事

トピックス

鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
永野芽郁のマネージャーが電撃退社していた
《坂口健太郎との熱愛過去》25歳の永野芽郁が男性の共演者を“お兄ちゃん”と呼んできたリアルな事情
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン