国内

島田裕巳氏が指摘「靖国神社が消える日は遠くない」

宗教学者の島田裕巳氏


◆「歪み」は修正できない状況に陥っている

 遺族会など、戦争の記憶を直接持つ世代がどんどん退場していって、靖国神社内部にさえも、靖国神社が本来持っていた性格というものがわからなくなってきているのではないか。たとえばこの本には、みたままつりの露店が廃止された経緯の解説が載っていて、「厳粛な神社の空間を取り戻すべきだ」と徳川康久宮司が主張、廃止を決断したといいます。

 これに対し、「多くの国民が戦没者のことを思いながら、楽しく靖国神社に集まるのはいいことだ」というロジックで宮澤氏は反論している。実際の歴史を考えれば宮澤氏の言うことの方に分があり、靖国には実は「国民が楽しく集まれる場所」という性格が存在していました。けれども、それは「靖国には自分のお父さん、お兄さんたちがいるんだ」という、戦争の記憶を直接に知る世代だからこそ感じられた「親しみやすさ」だったのです。

 そういう世代が消えて、靖国にいるのは単に漠然とした、イメージとしての「戦没者」なのだという風にしか感じない国民が増えれば、「靖国神社は厳粛な慰霊の場であるべきだ」という徳川宮司側の主張の方に説得力が出てくる。

 この本は宮澤氏が現状を憂いて、何とかうまい形で靖国神社を存続させていく道筋はないかという思いで書いたものだとは思います。しかし逆に戦後70年、靖国神社が本来あるべき形と異なる宗教法人として歩んできて、内部においてさえすごい歪みが出てきており、もう容易にはそれを修正できない状況に陥っているという状況をまざまざと教えてくれる一冊だと、私には感じられました。

 本当に「靖国神社が消える日」はそう遠くないのかもしれない。私はそんな感慨をさえ抱いています。

関連キーワード

関連記事

トピックス

今年の1月に50歳を迎えた高橋由美子
《高橋由美子が“抱えられて大泥酔”した歌舞伎町の夜》元正統派アイドルがしなだれ「はしご酒場放浪11時間」介抱する男
NEWSポストセブン
水原一平容疑者は現在どこにいるのだろうか(時事通信フォト)
大谷翔平に“口裏合わせ”懇願で水原一平容疑者への同情論は消滅 それでもくすぶるネットの「大谷批判」の根拠
NEWSポストセブン
入社辞退者が続出しているいなば食品(HPより)
いなば食品、入社辞退者が憤る内定後の『一般職採用です』告知「ボロ家」よりも許せなかったこと「待遇わからず」「想定していた働き方と全然違う」
NEWSポストセブン
「歴代でいちばん好きな“木村拓哉が演じた職業”」ランキング ファン、ドラマウォッチャーが選ぶ1位は『HERO』の「検事」
「歴代でいちばん好きな“木村拓哉が演じた職業”」ランキング ファン、ドラマウォッチャーが選ぶ1位は『HERO』の「検事」
女性セブン
STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
ムキムキボディを披露した藤澤五月(Xより)
《ムキムキ筋肉美に思わぬ誤算》グラビア依頼殺到のロコ・ソラーレ藤澤五月選手「すべてお断り」の決断背景
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン
眞子さんと小室氏の今後は(写真は3月、22時を回る頃の2人)
小室圭さん・眞子さん夫妻、新居は“1LDK・40平米”の慎ましさ かつて暮らした秋篠宮邸との激しいギャップ「周囲に相談して決めたとは思えない」の声
女性セブン
いなば食品の社長(時事通信フォト)
いなば食品の入社辞退者が明かした「お詫びの品」はツナ缶 会社は「ボロ家ハラスメント」報道に反論 “給料3万減った”は「事実誤認」 
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン