とくにもともと能力はあるはずだという馬が、がんばれば気持ちいいことがあると学習すれば、次もがんばるようになる。競馬新聞などが最近好走している馬について「勢いがある」「前走できっかけ掴む」などと書くのは、こういったこともあるのでしょう。
では、接戦ではなく勝ち負けに届かないレースの場合はどうでしょう。馬のメンタル面のみを考えた場合、最後の直線ではがんばる努力をさせないほうがいいという説もある。
日本の競馬では許されませんが、ヨーロッパのジョッキーは無理をさせないこともある。懸命に走っているのに強いムチを入れると、「オレって、全然ダメなんだな」というトラウマになってしまう。馬は健気な部分もあればずる賢いところもあり、「もう届かないんだから、無駄なムチを入れるなよな」なんて思う(笑い)。
ただし、そのとき馬の気持ちをジョッキーが酌んだからといって、次走は意気に感じてがんばるとは限らない。諦めたほうがラクだと思ってしまうかもしれない。ジョッキーにしても追うのはとても疲れること。届かないと思って諦めると馬も必ず諦めるので、やはりきっちりと追ってもらわなくてはいけません。
よく「途中で競馬をやめた」といいますが、それはジョッキーがやめることを教えてしまった可能性もある。怠けグセがついてしまった馬の場合は、勝敗が決した後もしぶとく追わせることでメンタル面が変わることもあります。馬がしゃべれるのなら、レース後に騎手の乗り方について聞いてみたいですね。
●すみい・かつひこ/1964年石川県生まれ。2000年に調教師免許取得、2001年に開業。以後15年で中央GI勝利数23は歴代3位、現役では2位。今年は13週連続勝利の日本記録を達成した。ヴィクトワールピサでドバイワールドカップ、シーザリオでアメリカンオークスを勝つなど海外でも活躍。引退馬のセカンドキャリア支援、障害者乗馬などにも尽力している。引退した管理馬はほかにカネヒキリ、ウオッカなど。『競馬感性の法則』(小学館新書)が好評発売中。
※週刊ポスト2017年8月11日号