──衆院の任期は残り1年半しかない。改憲案の提出を急ぐのは与党が3分の2の議席があるうちに国会で発議し、次の総選挙を憲法改正の国民投票とのダブル選挙にするためではないか。
(ここで石破氏は席を外し、使い込んだ1冊の分厚い法学書を持ってきた)
石破:これは40年前の大学時代に習った憲法学の教科書。著者の清宮四郎先生は、憲法改正の国民投票は単独で実施するか、あるいは衆院か参院の選挙と同時にやる方法があるが、同時にすれば国民は選挙に気を取られて憲法のことを考えるのは難しいだろう。従って憲法のような重大な問題は国民投票単独で行うのが望ましいと書いておられる。
私は9条改正はそれだけで正面から国民に問うべきで、選挙でたとえば減税とか、年金を増やすとか、国民に受けるような政策と抱き合わせでやるようなことはすべきではないと考えている。
──そうした憲法改正のプロセスなら政治は国民の信頼を取り戻せると思うか。
石破:議員になる前に故・渡辺美智雄先生の講演を聞いたことがある。「政治家の仕事は勇気と真心を持って真実を語ること。これ以外にない」という言葉に非常に感動してテープを何度も聞き続けた。
いま街角で「政治家を信じますか」と聞いたら10人のうち8~9人は「信じない」と答えるだろう。「政治家はろくなもんじゃない。表で言うことと裏でやっていることが全然違う」と、多くの人がそう思っている。
では、政治家は国民を信じているだろうか。“本当のことを言っても国民はわからない。どうせ甘いことを言えば乗ってくる”──そう思って真実を語っていないんじゃないか。国民を信じていない政治家が国民に信じてもらおうなどと思ってはいけない。
■聞き手・構成/武冨薫(ジャーナリスト)
※SAPIO2017年9月号