国内

靖国神社元幹部の「A級戦犯合祀」批判に専門家が反論

「合祀」は正しかったのか

 元靖国神社ナンバー3(禰宜)の宮澤佳廣氏が書いた『靖国神社が消える日』(小学館)が、発売早々、波紋を呼んでいる。「靖国神社は宗教法人であってはならない、国家護持として国が責任を持って英霊を祀るべきだ」「宗教法人として宮司ら一部の判断で行われたA級戦犯合祀の手続きは不適切だった」などの主張が、沈静化していた靖国問題に再び火をつけようとしているのだ。靖国神社崇敬奉賛会青年部顧問で神道学者の高森明勅氏は、この本に真っ向から噛みついた。

 * * *
 宮澤氏の著書は、あくまで靖国神社の将来を憂えるという公的な問題意識で書かれたものでしょう。そこに多少、個人的な感情が混入しているように見えるのは残念ですが、著者としては将来、「靖国の公共性」が失われるのではないかと本気で心配しているのだと思います。

 本書執筆の「最大の動機」は「靖国神社の国家護持という課題を再提起」することにあると、ご本人も書いています。しかしそれにしては著者が考える「国家護持」とはどのような仕組みなのか、そこへの道筋をどう見通していて、クリアすべき課題は何なのか、そうした基本的な論点についての言及がほとんどないのは、いささか不思議な気がします。

 昭和40年代には、自民党が用意した靖国神社国家護持法案が繰り返し国会に提出されました。その法案を著者はどう評価しているのか。あのとき結局、法案は廃案となり、国家護持への動きは挫折した。その挫折をどうとらえているのか。それにも立ち入った検討はなされていません。どうやら著者の「動機」と本書の中身は、必ずしも整合的ではないようです。

 靖国神社は今の宗教法人のままではダメだと強調しながら、「では解決法は?」となると、これまでに提出された意見を断片的に紹介してあるだけ。もちろんだからと言って、この本が無価値だということにはなりません。興味深いテーマも取り上げています。

 例えば靖国神社は自衛官が「戦死」したら祀れるのか。一般にはあまり問われてこなかった実践的なテーマです。しかし、実は今の靖国神社の合祀基準では「祀れない」ことになっています。答は出ているのです。だから、その合祀基準を見直すのかどうか。見直すとしたら、靖国神社の伝統と「公共性」に照らしてどのように……といった議論になるはずです。しかし、これについても特に掘り下げた考察はなされていません。

関連キーワード

関連記事

トピックス

六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
宮城県栗原市でクマと戦い生き残った秋田犬「テツ」(左の写真はサンプルです)
《熊と戦った秋田犬の壮絶な闘い》「愛犬が背中からダラダラと流血…」飼い主が語る緊迫の瞬間「扉を開けるとクマが1秒でこちらに飛びかかってきた」
NEWSポストセブン
高市早苗総理の”台湾有事発言”をめぐり、日中関係が冷え込んでいる(時事通信フォト)
【中国人観光客減少への本音】「高市さんはもう少し言い方を考えて」vs.「正直このまま来なくていい」消えた訪日客に浅草の人々が賛否、着物レンタル業者は“売上2〜3割減”見込みも
NEWSポストセブン
全米の注目を集めたドジャース・山本由伸と、愛犬のカルロス(左/時事通信フォト、右/Instagramより)
《ハイブラ好きとのギャップ》山本由伸の母・由美さん思いな素顔…愛犬・カルロスを「シェルターで一緒に購入」 大阪時代は2人で庶民派焼肉へ…「イライラしている姿を見たことがない “純粋”な人柄とは
NEWSポストセブン
真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン