兄・輝星と仕草も容貌も瓜二つの吉田大輝
8月5日に開幕する夏の甲子園。一際大きな注目を集めるのが、金足農業のエース・吉田大輝だ。7年前に“金農旋風”を起こした吉田輝星(現オリックス)を兄に持つ大輝の決意に、ノンフィクションライターの柳川悠二氏が迫った。
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色白ながら精悍な顔立ちは兄によく似ている。投球前の股割りストレッチや捕手のサインをのぞき込む仕草も、まるでトレースしたよう。7歳違いの「吉田兄弟」の容貌はすべてが瓜二つだ。
だが、「性格はまるで違います」と父・正樹さんは話す。
「兄のプレーを観ていますから、グラウンドでの姿は自然と似てきました。マウンド上で常に強気で、負けず嫌いな点も一緒なんですが、普段から明るくて元気な輝星に対し、大輝の場合はどちらかというともの静か。悪さこそしないものの、やんちゃな輝星のほうが子育てにおいて圧倒的に手がかかりました(笑)」
大輝は今年の甲子園出場校のアンケートで「極度の人見知り」と自身の性格を分析している。さらに将来の夢として、「プロの世界で兄と野球をする」と記し、その理由を「大好きな兄と野球をしたいから」と書いている。正樹さんが続ける。
「兄弟仲は良くて、ケンカしているところも見たことがない。でも2018年に輝星が大きな注目を集めて、大輝は苦労したと思います。見ず知らずの人が近づいてくるし、野球をやっていても『輝星の弟』という見られ方をする。嫌な思いもしたはずなんです。それでも、野球を辞めたいと口にするようなことは一度もなかった。メンタルは鍛えられたと思います」
7年前の夏、金足農業はスクイズを多用するスモールベースボールで横浜や近江、日大三を倒す旋風を起こし、決勝に進出。史上初となる2度目の春夏連覇が懸かった大阪桐蔭と対戦した。
しかし、地方大会からひとりで投げ抜いてきた輝星は力尽き、5回12失点で降板。試合は2対13で敗れた。あの夏、輝星が投じた球数は1517球にのぼった。
この試合は甲子園最多の通算70勝を挙げている大阪桐蔭の西谷浩一監督にとっても忘れられない一戦だ。
「あの日は朝からどのテレビをつけても、金農旋風ばかりで、社会現象のように盛り上がっていた。球場に入ると、うちのアルプス以外は金農ファンばかり。吉田君と金農の持つ不思議な力というか、ミラクル的な要素もあり、やりにくい相手でした」