品のよさ。実際に会って、文枝の佇まいからまず感じたのは、それだった。
漫才も落語も、笑わせるために、どんどん表現が過激になっていく傾向がある。しかし、人の不幸をネタにした話や下品なギャグに思わず笑ってしまい、観ている者が、罪悪感を覚えてしまうときがある。それは「笑い」ではあっても「芸」ではない気がする。そこへいくと、文枝の高座は、徹頭徹尾、芸だ。
「たとえば、この前、女性の代議士さんが秘書に対して悪態をついたというニュースがありました。そういうことをネタにすると、その場では笑いになっても、あんまりいい笑いにはならないと思うんですよね。もっと違う笑わせ方があるんちゃうかなあと思うんです。それより、ほっこりするといいますか、楽しく、気持ちよくなって欲しい」
●桂文枝/1943年、大阪府生まれ。関西大学在学中に桂小文枝(故・五代目桂文枝)に入門。深夜ラジオで若者の人気を得て、『新婚さんいらっしゃい!』などテレビ番組でお茶の間に定着。1981年、創作落語を発表するグループ・落語現在派を旗揚げ。2006年紫綬褒章、2007年菊池寛賞、2015年旭日小綬章。
■撮影/林景沢
※SAPIO2017年9月号