恭しく演目がめくられて、春風亭小朝さんが登場。会場はすでに笑いの渦。母もワクワクしているのがよくわかる。噺はなしが始まって、母の表情をそっと追った。あ、大丈夫だ、ちゃんと噺に沿って笑っている。しかも前のめり。

 ん…? ちょっと待って。耳に手を当ててる? どうもよく聞こえないらしい。落語家の声が小さくなったり、会場に笑いの波が起こったりすると、不快そうに耳に手を当てて前のめりになる。

 とはいえ、母も83才だ。耳が遠くなるのは仕方がないし…と思いつつ、私も小朝さんの巧みな噺に引きこまれ、しばし母のことを忘れた。

 ふと気づくと母は居眠り。最初は楽しそうに笑っていた分、その姿に心が沈んだ。

「さっき耳に手を当てていたでしょ? 聞こえにくいの?」

 帰りの電車で、思い切って聞いてみた。

「あら、そうだった? でも年寄りはみんなそうよ。それで…今日はどこへ行ったんだっけ? あ、小朝さんね。おもしろかったわ~」

 その日は珍しく覚えていた。きっと途中までは心底楽しんだのだろう。聞こえをよくするには補聴器? 仕事をするわけでもないのに大げさだろうか。聞こえなくて何かを楽しめなかったとしても、どのみち忘れてしまうわけだし。でもだからこそ、瞬間、瞬間の楽しみが、母にはすべてなのだ。

 その後の“聞き込み”で、母と同じ住宅のお仲間も、食堂での話が聞き取りにくく、おしゃべりが楽しめないという理由で、娘さんが耳鼻科に連れて行ったという。よし! ちゅうちょする理由はない。補聴器外来のある耳鼻科に、さっそく予約を入れた。

※女性セブン2017年8月24・31日号

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