(1)都心部でも今後空き家が急増する
現在、全国の空き家数は820万戸に達するが、そのうちの約1割、81万7000戸が東京都内の空き家であることは意外と知られていない。さらに東京都内の空き家のうち約3分の2がマンションなどの共同住宅の空き家である。
今後、都内に住宅を所有する戦中世代、団塊世代の多くで相続が発生することで、例えば世田谷区や杉並区といった都内の優良な住宅地でも、多くの中古戸建て、マンションの売却や賃貸への供与が発生することが見込まれる。
(2)生産緑地制度の期限到来
1992年に改正された生産緑地制度では、都市の農地を守る目的で、土地の所有者が30年にわたって農業に従事することを条件に当該土地に対する固定資産税を農地並みに低減してきた。この制度が30周年を迎える2022年以降、多くの都市部の農地が宅地に転用される可能性が高い。その面積は東京都内だけで3330ha、東京ディズニーリゾート33個分もの土地面積に匹敵するのだ。
(3)相続対策マンション、アパートの急増
高齢者人口の増加が続く中、一定の資産を蓄えた彼らが、相続対策のために賃貸マンションやアパートを建設し続けている。需要を考えずに相続対策のみに視点を置いたこれらの賃貸不動産の大量供給は、賃貸マーケットを大幅に下落させることになる。
(4)「実需」「投資」を支えた団塊世代の退場
現在の日本の人口構成の中で圧倒的な存在感を見せてきた団塊世代が、2025年以降は後期高齢者になる。彼らは「実需」としてマンションを買い、相続対策としてマンションを買ってきたが、彼らがマーケットから退場することは、「投資」と「実需」の両面からマンションマーケットを冷やす可能性が高い。
(5)人々のライフスタイルの変化
団塊ジュニアを筆頭とする40歳代、30歳代の間では、車などの大きな買い物はしないライフスタイルが根付いている。一生を住宅ローンに縛られて、マイホームを持つという発想が、年代が進むにつれ薄れてきている。
(6)ネットによる不動産情報の非対称性の崩壊
マンションのネット仲介が進む中、これまで、不動産の情報に疎かった買手側も豊富な情報をもとにマンションの選択、購入を検討できるようになった。その結果、相場の動向のみならず、マンションを所有することのリスクについても十分な知識を得るようになり、これまでのように「みんなが買うから私も買う」といった短絡的な行動をとる人が少なくなる。
(7)スラム化マンションの登場
築50年を迎えるマンションの中には、建替えはもちろん、大規模修繕すらままならないマンション管理の実態があきらかになってきている。住民の高齢化と建物の老朽化が同時進行することにより、現状の問題を放置せざるを得ない事態に陥っているマンションが、今後急増することが予想される。
以上、こうした状況を鑑みるに、投資対象であり続けるような好立地のマンションを「投資」として短期間で売買を繰り返すプロの投資家を目指さない限り、「実需」として購入したマンションが中長期間でおおいに値上がりして「財産」となるのは、ごく一部のブランド立地にあるビンテージマンションに限られることになるのは明らかだ。
「投資」は決して甘い世界ではない。誰しもが勝利できた平成バブル期の論理はもはや全く通用しないのがこれからの日本なのだ。