A氏の宣告でも医師はホワイトボードに大腸のイラストを描いてがんの部位に印を付け、腹腔鏡を入れる場所や切除後に縫う箇所を丁寧に説明したという。術後に人工肛門を付ける可能性もあることや、腸閉塞を起こすリスクが5%あることも伝えられた。
多くの固形がんは切除が根治的な治療法であり、たとえ高齢患者でも「切れる」と判断したら積極的に手術を提案する外科医が大勢を占めるようだ。
特に高齢者の大腸がんでは、腸閉塞を起こして食事の摂取が難しい場合、QOL(生活の質)を考慮し手術を行なう場合が多いという。一方、負担の大きい抗がん剤治療は高齢であるほど減少する傾向にある。
ただし、がん宣告の場面で医師は患者に即断を促さない。年間300人以上の患者の相談に乗る「がん難民コーディネーター」の藤野邦夫氏がいう。
「患者に一通り説明したら、検査結果や治療法が詳しく書かれた資料を渡し、数日かけてじっくり考えてもらうという方針の医師がほとんど。その際『病状説明用紙』や『同意書』などを渡し、口頭での説明を詳しく文書化しサインをもらう」
まさにA氏もそういった流れで決断した。告知を受け帰宅した後、A氏は家族と相談。医師の力強い言葉と家族の「人工肛門になっても支える」という言葉に後押しされ、手術の同意書にサインした。