「ジョンとしては、ジャベールは生肉を食っているようなイメージでしたから、初演の時にジャベールもやっていた滝田くんの方が合ってはいるんですよ。

 ですから、ちょっと違うスタンスで行きました。牢獄の囚人の子供として生まれて、法が絶対だと子供の頃から叩きこまれて大人になったという情に欠ける人間が、ジャン・バルジャンに出会い彼の情によって助けられる。そこで彼のアイデンティティは全て崩れてしまうんです。

 劇中『星よ』という歌があります。星は常に動かないけれど、地上を見ている。ジャベールもそのように法で人間を見てきたけれど、ジャン・バルジャンに人の心を説き伏せられ、全てが崩れ落ちて何がなんだか分からなくなる。

 そういう、人間の情に生きるジャン・バルジャン、法に生きるジャベール、それに庶民の生活に生きるテナルディエという三人のトライアングルであの芝居はできていると思い、『法を信じる男』としてジャベールを演じようとしました。ジョンも役者のアイディアを大事にしてくれる演出家でした。

 八百回ぐらい公演をやりましたが、飽きたと思ったことは一度もありません。一回一回に緊張感がありますから。いつも観客が違う、季節も違う、風も匂いも違う。それに相手役の出方も違うんですよ。そして、僕が最初に出した第一声の音も違うことがある。同じ声が毎日出るわけではないですから。その日の調子で作っていく。だから、飽きないんです」

●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。

◆撮影/五十嵐美弥

※週刊ポスト2017年9月8日号

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