『雪の瀬川』は六代目三遊亭圓生の演目で、今これを手掛けるのはさん喬のみ。勘当された若旦那と吉原の花魁の純愛を描くこの物語に、さん喬は独自のきめ細やかな演出を持ち込み、丁寧な語り口で聴き手を優しく包み込む。

 瀬川花魁が命がけで吉原を抜け出してくるクライマックスの繊細な描写は、さん喬の独壇場。静かな雪の夜の情景と、切ない恋を貫く男女の心情を、さん喬は見事に重ねあわせる。『大人の落語』の『雪の瀬川』の項で、この場面では「音」と「色」を大事にしている、という言い方をしていたのが興味深い。

 さん喬の『雪の瀬川』は圓生の口演よりもメリハリが効いていて無駄がない。だからこそ観客は感情移入しやすい。終演後、楽屋で話を聞かせてもらったが、今回この本を書いたことで個々の演目に改めて向き合い、噺の「無駄な部分」に気づくことができたのが収穫だったという。『雪の瀬川』も、まさにそのひとつ。さん喬十八番に、さらに磨きが掛かった名演だった。

 なお、『大人の落語』には『たちきり』『鰍沢』『芝浜』の3席の音声が収録されたDVDも付いている。なんと贅沢な! 「お買い得」とはこのことだ。

●ひろせ・かずお/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接している。『現代落語の基礎知識』『噺家のはなし』『僕らの落語』など著書多数。

※週刊ポスト2017年9月15日号

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