だからといって一切の演出を拒んでいるわけではない。例えば武道館で講談を読むとなれば、その演出を考えるという。
「講談は自由なので、巌流島にステージを作って、宮本武蔵を読んでもいいんです。そこにはアントニオ猪木とマサ斎藤が試合をした碑がありますが、松之丞がここで読みましたという碑が立つだけで意味がある。そういうのがあってもいいけど、やはりシンプルな素噺(すばなし)が講談の原点。ストロングスタイルが一番面白いんです(笑い)」
独演会のチケットは完売になり、寄席に多くの客が訪れる。松之丞がこれほど客の心をつかんで離さないのは、なぜか──。「いかに客を楽しませるか」という粋な心意気で、「講談って楽しいだろ。面白いだろ」と客の心を打ち続けるからだ。客席目線を研鑽したあの4年間の経験が、今も松之丞の体の中に生きているのである。
■取材・文/佐藤俊
※週刊ポスト2017年9月15日号